第20話 劣勢

 獣人族側の魔法が、いっさい使えなくなってしまった。

 俺たちは、おそらく使えるであろう加護をたよりに、攻撃体制を変えることにした。


 俺はラミを乗せて最前線へ飛び出した。


「フェニックスだ!やつを狙え!!」

「撃て!撃てぇぇぇ!」


 聖国の怒号とともに矢が飛んでくる。


「ラミ!加護を試すぞ!」

「りょーかい!」


 俺には絶対に大丈夫だという確信がある。

 しかし、その確信ラミを巻き込むことにためらいがあった。

 なんたって俺はビビリだからな!


 俺とラミは真正面から矢を受けた。

 思った通り、俺を中心にバリアが張られる。

 いっせいに放たれた矢が、バリアにぶつかり折れていった。


「やっぱり使えた」

「いけた!」


 予想通りだった俺と驚くラミ。

 俺は後ろの獣人族に向かって叫ぶ。

 もちろん見ていたから分かっているとは思うけど一応、だ。


「俺を盾に使え!

 俺の後ろにいれば飛び道具はさけられるぞ!」

「わかった!」

「さすがフェニックスだな。やっぱり他とは違う」

「ありがてぇ!」


 聖国の兵士と向かいあう最前線。

 ラミの加護を、俺がバフで増幅ぞうふくさせる。

 そのすぐ後ろには武器を持つ獣人族たち。

 これならいける!

 俺は確信した。


「行くぞ!ラミ!」

「おっけー」


 ヒュンヒュンと、ラミが大斧を振りまわす音がする。


「近くの聖国兵は私がしとめるよ!」

「頼むぞ」


 そのまま聖国の軍勢を、この戦場から追い出すように攻撃していく。


 後ろの獣人族たちも、危なくなったら俺の後ろに隠れ、大丈夫になったら前へとおどりでては聖国の兵士を倒していった。


「魔法は封じられたが、いちおう戦えているな」

「とはいえ、魔法を使えるようにしないとニックに負担がかかっちゃうよ」


 ラミの言葉に、分かってる。とこたえようとした、その時。



 ドゴォォン!


「うわぁぁ!」

「ガァァ!」


 後ろから大きな音がした。

 同時に獣人族の悲鳴が聞こえる。


「なんだ!?」

「すごい土煙つちけむり……」


 もくもくと、まるでビルでも爆破したかのような土煙つちけむりが、あたりをおおっている。

 何もみえない。

 だが、獣人族たちが大変なことになっているのは確かだ。


 バチンッ!


 魔法攻撃がバリアによって弾かれた。


「また魔法攻撃!」

「こっちは何も分からないのに!キリがない!!」


 こちら側に状況を把握させないようにしているのか、聖国が魔法を連続で放ってくる。


 バチンバチンバチンバチン!


「どうしたらいいんだ……」


 俺はおびただしい魔法を弾きつつ、途方に暮れた。


「風魔法で吹き飛ばせればいいのに!」


 悔しそうにラミが歯を食いしばる。

 吹き飛ばす……。そうだ!


「俺が羽ばたけばいいんだ!」


 俺は音がした方向へ大きく羽ばたいた。

 ダチョウほどの大きさがある俺だ。

 翼も普通の鳥より大きくて力強い。


 バサッバサッ


 空中にとどまり、さながら飛び立つ前のように、翼を思いきり動かす。


 バチン!バチン!


「ニック!魔法と矢が飛んできたよ」

「問題ない」


 ラミがあたりを警戒してくれるので俺は安心して羽ばたける。


「後ろをむいてるニックを攻撃するなんて……。

 卑怯なやつら!」


 少しずつに土煙つちけむりが晴れてきた。


「なんだ!?」

「なにこれ!?」


 俺とラミは目を疑った。

 俺たちの陣地の後方に大きな岩が落ちて、獣人族の拠点が破壊されていたのだ。

 たくさんの獣人族が負傷している。

 それを助けるために、多くの獣人族が前線から駆り出されていた。


「ひどいな……」

「あんな岩、今までなかったはず……。

 聖国の魔法……?」

「おそらく。だが大魔法の魔法陣は見えなかった」

「ありえない……」


 ラミは呆然とつぶやいた。


「いてぇ、いてぇよぉ……」

「助けてくれ……」


 悲惨ひさんな声が聞こえる。


 聖国に魔法が封じられている今、獣人族たちは効果的な治療が出来ない。

 しかも拠点を破壊されたのだ。

 キズ薬すら無いかもしれない。

 一緒に戦ってきた仲間が苦しむのを、何も出来ずにみているしかないのだ。


 聖国の攻撃に、俺は無性に腹が立った。


「獣人族は救護にあたってくれ!

 俺たちだけで攻撃は防いでみせる!!」


 俺は獣人族に叫んだ。


「フェニックス!

 お前だけで耐えられるのか!?」


 驚いたように獣人族が叫ぶ。

 とまどう声が、あらゆるところから聞こえてきた。


「大丈夫だ!」


 はっきり言って、状況はとても悪くなっている。

 さっきまでの高揚感は、もはや俺たちにはなかった。

 それでも俺が余裕をみせることで、獣人族たちにも余裕が生まれるはずだ。


「俺にまかせろ!」


 獣人族たちはこくりとうなずき、怪我人へと走っていった。


 防戦となるが、いまはそれしか方法がない。


「私はニックを信じるよ」

「ラミ、ありがとう」


 前を向き、聖国の軍勢をにらみつけた。

 一糸乱れぬ統制された動き。

 やられても次から次へと補充される兵士たち。

 並の軍勢だと、あっという間にやられていただろう強さ。

 立ち向かえたのは、獣人族が桁外れの肉体をもっていたからだ。


「よし!」


 俺は呼吸を整えた。


「この戦場を俺が救う!」


 一対数百の戦い。

 ビビリの俺が、ここまで啖呵たんかを切ったんだ。

 何が何でも勝たせてもらう。


 ◆◆◆

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