いつか歩き出すために

明け宵

第1話

 雨が降っていた。雨粒が地面に落ちる音が鳴り響いている。

 そんな中、1人、歩く人が見える。傘もささず、何か小脇に抱えているようだ。恐る恐る、しかし確かに歩みを進め、やがて端で立ち止まった。

 だが、不思議なことに、焦ったように手すりを乗り越えた。そして何かを、抱えていたものの下に隠すように置き、後ろ向きに倒れていった_



 昨日の夜は救急車の音がうるさかったな。どうしたんだろう。

 そんなことを考えながら高校への道を歩く。教室の自分の席へ向かうと既に席に着いていた男子が声をかけてくる。

「おはよう」

「おはよう、今日も早いね」

 僕も返事を返した。友達の井田恩陽だ。

「なんか昨日の救急車の音が耳に残ってて。夢見が悪くて目が覚めちゃってさ」

「確かにうるさかったね」

 周りもそんな話ばかりしていた。しかも中には、「警察も見た」とか「学校の方に行ってた」なんて言ってるやつもいる。

 ほんと、なんなんだろうな。そう言えば、もう一人の友達がなかなか来ない。どうしたんだろう。

 …あ、担任が入ってきた。

「起立、礼っ」「「「おはようございます」」」委員長の号令に合わせてあいさつをする。

「おはよう。今日は話すことが多い。急ぐぞ。まず、このクラスに転校生がきた。名前は…自己紹介は自分でしてもらうか。入って来い」

 変な時期の転校生だな。先生の呼びかけでその人が入ってくる。身長の高い男子だ。

「思原視音だ。少し慣れないところもあると思うが宜しく願いたい」

 少し傲岸な話し方をするやつだな。でも、それに不快さは感じない。その佇まいにマッチしていると言えばいいのか。

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