第52話 迷子の森、死神の策略

 サキュバスの村を出てからしばらく歩き続けているが一向に景色に変化がない。


 森に入ってからか同じような木しか見ていないせいかもしれない。


 もしかしてここに来て道に迷ったか?


「ここさっきも通らなかった?」


 案内役であるガラライとともに先頭を歩く俺にラーブが後ろからどついてきた。


「痛っ。俺に当たるな」


「少し飽き飽きしてさ」


「まあ確かに同じところな気はしてたんだがな。ガラライこれはどういうことだ?」


「さ、さあ? 私にもわかりません」


「さあって……」


 案内役であるガラライがわからないとなるとこの森からの脱出方法がわからない。


「ちょっと待っててくれ」


 俺は一度高く飛び上がってみた。が。


「俺たちどっちから来たんだ?」


 サキュバスの村がどこにあったかわからないほどで、見渡す限り森だった。


 そこまで深いところまで歩いたつもりもなかったが。


「これは幻覚か?」


「いや、幻覚ならば我の力で防げているはずだ。これは森にしかけられたワナだろう」


「なるほどな」


 俺は着地してから仲間たちに状況を伝えた。


 仲間たちに混乱が広がらないように努めたが難しいだろう。


 さっそく視線はガラライに集中してしまった。


「……!」


 怯えた様子でガラライはラーブの背中に隠れ、顔だけ出すような姿勢になった。


 今回はしっかりラーブになつくスキルは発動しているようだ。


 だが、今のラーブは森の中で嫌気がさしているのか、あまり守ろうという気配を感じない。


「ガラライちゃん。どうしてこんなことになってるの?」


「だ、だって……」


 ガラライは黙ってしまう。


「話せないこと?」


 首を横に振るガラライ。何かを恐れつつもガラライは口を開いた。


「言いにくいんですが、実は、私たちの仲間は誰もここまで来たことがないんです」


「え!?」


「もっと言えば、みなさんと会った場所から動いたことすらないんです。魔王軍相手に勝てたから調子に乗って、でもコーロントでは一番弱くて、でも外からの相手なら楽勝で勝てて、調子に乗ってたんです。ごめんなさいぃ」


「マジか」


 俺たちをバカにしていたあの調子の乗り方で、外からの相手にしか勝っていなかったのか。


 こうなると、相手にしたのも魔王軍の下っ端だったのだろう。


 それでも勝ったことは事実で自信だけつけてしまった。


「だますつもりはなかったんですぅ。でも、言い出せなくてぇ」


 泣きそうな顔でガラライは言ってくる。


「いい、いい。気にしなくていい。別に強さだけが全てなんて俺も考えてない。ラーブが案内役とか言ったから、俺も役割を押しつけてしまった」


「私のせい?」


「そうじゃない。元々は死神がシニーちゃんをさらったことが悪いんだ」


「そう、ですか?」


「ああ。だからガラライは気にしなくていい」


 俺の言葉を聞いてベヒがガラライの頭に手を伸ばした。


「いい子いい子ー」


 ガラライはビクッと体を震えさせたが、敵意がないことがわかると力を抜き表情が笑顔になった。


 先輩としてなのか、ベヒもガラライを落ち着かせようとしてくれているようだ。


「ギャハハハハハ!」


 かわいらしい高い声に似合わない笑い方が遠くから響いてくる。


 聞き覚えのある嫌な声だ。


「死神アリス」


「覚えててくれたかー。まあ、ここにいるってことはそういうことだよな。ベルトレットの姿は見えないが? まさか蘇生役がこのコーロントにいるってのか?」


「いいや?」


「なら、まさかオレに勝ってあの女を取り戻すつもりなのか?」


「そうだと言ったら?」


 アリスは無表情になった。


「ギャハハハハハ!」


 そしてすぐ、腹を抱えて笑い出した。


「笑える冗談はよせ。あの時動けなかったお前らに何ができるってんだよ!」


「ならシニーのところまで連れてけよ。今すぐぶっ飛ばしてやる」


「誰が真っ直ぐ招待してやるかよ。そんなこと一言も言ってないだろ?」


「このやろ!」


 そもそもコイツが約束を守るなんて保証はない。期限前でもシニーは危険かもしれない。


「来れるもんならここまで来るといいさ!」


 宙にぷかぷかと浮いてアリスは挑発してきている。


 余裕しゃくしゃくといった様子でスキだらけだ。


「ベヒちゃん」


「何?」


「俺が離れれば戦闘能力はベヒちゃんが一番だ。少しの間みんなを任せたぞ」


「はーい!」


 俺はベヒの元気な返事を聞いてからしゃがみ込み、勢いよく死神アリスめがけて跳び上がった。


「とった!」


 一瞬で胸ぐらを掴み、俺は笑みを浮かべる。


「さあ、白状してもらおうか。もうお前のスキルは効かないからな」


「キャハ! こわーい。でも残念。これは身代わりでね」


 ぽんっ! 音を立てて白煙が上がると死神アリスの姿はなかった。代わりに俺の握っていたものは女の子のお人形に変わってしまった。


 浮遊を相手に任せていたせいで俺はその場にとどまれなくなった。


「な、落ちる。飛行はできない」


「任せてください」


 ヨーリンの声かけも虚しく、俺のことを掴み出す何かが無数に現れた。


「手? 引っ張られてる!?」


「ギャハハハハハ! 大魔王の助力も無駄無駄ァ!」


 ヨーリンが何をしようとしていたのかわかるより前に空がどんどん遠くなっていく。


「表にあるものが全てじゃない。裏にこそ真相があるもんさ。せいぜいあがきな。オレの用意した部下たちの裏の世界を」


 その言葉を最後に人形から放たれていた魔力は消え、完全に動かなくなった。


 アリスからの魔力が何かの引き金になっていたのか、手の引っ張る力が強くなった。


 手は俺を穴に吸い込もうとする。


「ラウルちゃん!」


「おにい!」


 そこに追いかけてこようとする仲間たち。


「来るな! すぐに戻る!」


 俺は大声で仲間たちを制止した。


「私は行きます!」


「ガラライ?」


 俺の制止も聞かずガラライは俺の胸に飛び込んできた。


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