第49話 誰とシニーを助けに行くか

 邪神を倒した直後、死神アリスによってシニーがさらわれた。


 期限までにベルトレットを連れて来なければ、シニーや他の人間の命が奪われるらしい。


 しかし、ベルトレットはいない。こうなれば力付くしかないが、幸い期限までまだ時間がある。


 焦ってしくじっては元も子もないため、俺たちは十分な休息をとることにした。


「さて、全員起きたな」


 俺の体は神の力によって、好きなタイミングで男にも女にもなれるようになった。


 昨日はあたかも今回の件に巻き込むような形で話を進めてしまったが、仲間たちには正直に話すことは昨夜から決めていた。


「シニーの救出について話したいことがある」


 俺の呼びかけにみんなは顔を上げた。


「どしたのラウルちゃん。改まって」


「まあ聞いてくれ」


「別にいつでも聞きますけど」


 みな、俺の様子を見て、不思議そうに顔を見合わせている。


「シニーの救出は俺と行きたい人が来てくれ。ヨーリンからの話で危険なことはわかっている。みんなが大事だからこそ、危険な目に合わせたくない。だから無理について来てくれとは言わない」


 そもそも、今まともな戦闘ができるのは俺とアルカだけだ。


 ベヒは時と場合によるし、ラーブはスキル頼り、タマミは完全にサポーターだ。戦えたシニーはさらわれてしまった。


 ここまでの敵はなんとかできたが、邪神との戦いではスライムに大きな怪我をさせてしまった。


 俺の信頼がなくなっていてもおかしくはない。


 しかし、タマミもラーブも笑顔のままだ。


「水臭いですよラウルちゃん」


「え?」


「そうそう。私たちのことを気遣ってくれるのはありがたいけど、私たちだってシニーちゃんを助けたい気持ちはおんなじなんだから。ね?」


「うん」


「ベヒも! ラウルの力になる」


 みな強く頷き、俺のことをまっすぐ見ている。


「そう、なのか?」


「そこまで疑われると心外だなー」


「そうそう! 他人を頼ることは悪いことじゃないですよ」


「ベヒも一人じゃ弱いから。みんなに助けてもらってた」


 どうやら俺が信頼されていないというのは、俺のただの思い込みだったらしい。


「じゃあ、頼りにしてるぜ」


 本当に嫌われていても傷つかないように、自分から予防線を張って、自分を守っていたのは俺の方だったようだ。


「おうともさ! サポートは私に任せて」


「私だってここまで戦ってきたんだからね。私のスキルも役に立ってきたでしょ?」


「ベヒもできることはやる」


 三人とも俺のことを信頼してくれているようだ。


 冗談のように叩いてくるというか。


「いや、あはは。くすぐったいって。何してんのさ」


「「「変なこと言ったバツ」」」


 そうだった。今はアルカの姿だった。女子ばかりという状況にアルカの提案でアルカの姿になったんだった。


 色々と体の長さが違うからか攻撃以外には特に弱い。


 そのせいか、いつもよりなんだかくすぐったい気もする。


「ちょ、やめ。あは、は、話はまだ終わってない」


「お、おにい!」


 アルカが割って入ってきてくれたおかげで、俺は三人のくすぐりから解放された。


 危うく笑い殺されるところだった。


「ありがとな。助かったよアルカ」


「ううん。おにいは私のお兄ちゃんだから!」


「ん? 当たり前だろ。急に何言ってるんだ?」


 まだ考えがまとまっていないのか、アルカは俺から目線をそらしながら何かを考えている様子だった。


 どうかしたのだろうか。


「何かあったのか?」


「い、いや、その。おにいとこんなに仲のいい女の人、今まではいなかったから。勇者パーティではみんな少し距離感があった気がして」


「ああ。確かにな。途中からはベルトレットに夢中って感じだったしなぁ。俺、今までモテて来なかったからなぁ」


「違うの! そうじゃなくて」


 アルカは必死に手を振って違うことをアピールしてくる。


 けれど、俺がモテなかったことは事実で、そこを否定されるとさすがにお世辞がすぎる気がする。


 まあ、兄にお世辞を言うってのもよくわからないが。


 そんな様子をラーブがニヤニヤしながら見ていた。


「ラーブからも言いたいことがあるのか?」


「別に? ただ、ラウルちゃんの妹ちゃんってかわいい子だなーと思って。お兄ちゃんを取られちゃうんじゃないかって心配なんでしょ?」


「ち、ちが、違います! おにいが誰と仲良くしてようといいです!」


「それってなんか冷たくない?」


 妹の兄離れってこうやって勝手に進んでいくんだな。


「お、落ち込まないでおにい。わたしはおにいのことが嫌いってことじゃなくて、おにいはおにいで自由だからって意味で」


「そうか?」


 ぶんぶんと首を縦に振って誠意を伝えてくるアルカ。


 まあ、俺も妹にどうでもいいと言われて傷つくような年でもないか。


 いや、やっぱりちょっとショックだ。


 俺は俺で自由だからって言われてホッとしてる。


「ありがとな」


「うん!」


「二人とも本当に仲良いんだね。嫉妬しちゃうくらい」


「まあな」


「ハイ! 他に家族もいませんから……」


「大丈夫! 私たちを家族みたいに思ってもらっていいから。ね、タマミちゃん」


「もちろん!」


「ありがとうございます」


 アルカもだいぶ仲間たちと打ち解けたようだ。


 勇者パーティにいた時は俺に警告を出すほどパーティメンバーを信用していない様子だった。


 確かに、結果としては途中からベルトレットが魔王に乗っ取られていたのだから、アルカの判断は間違いじゃなかった。


 俺のために気をすり減らしてくれていたのだろう。


 アルカが何を言おうとしていたのか俺にはよくわからなかったが、大丈夫だろう。


「べ、ベヒも!」


「わかってるよ」


 焦ったように言ってくるベヒの頭を、くしゃくしゃっと撫でてやると、ベヒは照れたように笑っている。


 ついてきてくれると言うのなら、その言葉に甘えよう。


 仲間がいた方が心強いのは事実だ。


「仲間がいなければ、仲間を探す必要があったのだぞ」


「魔王軍で行っても言うことを聞かないのです。ラウル様の実力でも協力者は必要だと思いますわ。ワタクシのような」


「神もヨーリンも忠告ありがとな」


 俺は本当にいい仲間を持ったようだ。


「休んだらシニーちゃんを助けに行こうか」


「「「「オー!」」」」


 仲間たちの声を聞き胸が熱くなるのを感じた。


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