第47話 元勇者パーティを急襲する者
アルカの姿をしたラウルの命令で、あたしたちは勇者パーティとして自分達にできることをしていたです。
魔王討伐の報告はあたしのスキルによりすでに済ませたです。
報酬はラウルたちに譲ったです。
きっと後日ラウルは国をあげて魔王討伐の労を労われるだろうです。
そんなこんなで街の修繕のため、あたしカーテット。そして、リマにペクターの三人は、方々に迷惑をかけたことを謝りながら作業していたです。
「ベルトレットを出せ」
その日の作業を終え、借りている宿屋で休むところだったです。
突然、どこからともなく少女が部屋の中に立っていたです。
背丈はパーティの中で一番小さいあたしより低く、髪はオレンジ色で後髪が斜めに切りそろえられているです。
服装に目立った特徴はなく、どこかの村の女の子らしいです。でも、どこかで見た気がします。
「聞こえなかったか? ベルトレットを出せ。お前ら勇者パーティなんだろ?」
しかし、喋り方はどうにも粗野でとても可愛らしい女の子のものには思えないです。
何より驚きなのは、本人が扱えるのかわからない大振りのカマを持っていることです。
本物のアルカから聞いた、死神の女の子シニーにそっくりです。
あたしたちは顔を見合わせ、正直に話すことにしたです。
「ベルトレット様はもういないです」
「何? いない? 見えすいた嘘をつくな。仮にも勇者だぞ? 寿命でもないのにそう簡単に死ぬか! 聞き方を変える。ベルトレットはどこにいる!」
そう言われてもいないものはいないです。
邪神を倒しに行く前にラウルたちから聞いた話によると、ベルトレット様の痕跡は何も残されていないみたいです。
つまり、死んだ証拠はないです。
こうなると証明しようがないです。
「チッ。ダンマリか」
少女が少し横を見たです。
その時、どこかで見たことがある気がした理由がやっとわかったです。
右頬の特徴的なあざ。本人の話では生まれた時からあるというあざ。
その子はベルトレット様と一緒にダンジョンへ落とした女の子だったです。
「どうした。人の顔をよく見て。いや、オレのことを思い出したってことか? そう。コイツはお前らが殺そうとした女の子ども。その一人だ」
でも、この子はこんな喋り方じゃなかったはずです。
今思えばどうしてそんなことしてしまったのかわからないほど、いい子だったはずです。
それに、どうして他人事のようなんです?
「不思議そうだな。自分のことを語っているのに他人事なのかってとこだろ。そもそもオレだって自分でも何をしているのかわかっていない」
「ならどうしてこんなことになってるです」
「簡単なことだ。オレがコイツを殺した時、特殊な体質だったんだろうな。オレはコイツの体に肉体ごと吸収された。倒された相手を自分に封印するスキルの持ち主だったってわけだ」
「それならダンジョンで大人しくしてるはずでしょ?」
「ところがそうはならなかった。オレだってこの体をエサに冒険者を倒そうとしたがそうはできなかった。オレは今コイツの記憶に突き動かされている」
「それでワタクシたちを見つけてここまで?」
「ああ、そういうこった。ま、オレとしては人を殺せるなら誰だろうと構わない。復讐だろうがなんだろうが、コイツの願いを叶えることが人殺しにつながるならそれでいい。なんてったってオレは死神だからな。どうだ。殺そうとした相手に殺されるなんて絶望的だろ? いいネタをもらったもんさ。イヒッヒヒヒ」
自称死神は少女の見た目をしながら、悪逆外道のような笑い声をあげているです。
でもその表情はどう見ても楽しそうな少女の笑顔です。それが、余計に不気味さが増しているです。
どうやら、この子は中身が死神の勇者パーティ狩りらしいです。
今までもそんな人たちはいたです。
あたしたちの扱いがいいからと、嫉妬して金を巻き上げようとする人たちです。でも、そんな相手にあたしたちは一度も負けなかったです。けど。
「おいおい。どうした? 勇者パーティでありながら本当に心の底から絶望しちゃったっての? なっさけねー。ゲヒャヒャヒャヒャ」
少女の顔が少女のものとは思えないほど不気味に歪み出したです。
本当に中身が死神のものだと信じないといけないようです。
「狙いはベルトレット様です?」
「いいや?」
「それならアタシしたち全員?」
「そうに決まってんだろ? 勇者パーティ全員だよ。ここにいない男も女も全員、最終的には俺が命を奪ってやる」
「ですがそれは不可能だと思われます。神もベルトレット様を生き返らすことはできないようでした」
「神だ? 死神を前に神の話を出すか。そうかいそうかい。勇者ってのもしょうもないやつなんだな」
やれやれといった様子で少女は首をすくめたです。
「ま、いいや。まずはお前らからだ。ベルトレットを出さないってんならサイナラだ」
「「「え?」」」
ドサドサと続け様に重い音が部屋に響いたです。
あたしの目の前でリマとペクターの二人が血を流して倒れたです。
気づいた時には、自分の体にも強烈な痛みが走ったです。今ではもう床板を見ているです。
どんどんと床板が赤くなっていくです。
「おめでたいやつらだよな。自分の役割ってのを全うしないなんて。余計なことするからこんなことになるんだよ」
「……」
「喋れないよなぁ。喋れなくしたからなぁ」
あたしは他の二人より、痛みへの耐性はあるはずです。意識はまだあるです。
ただ、それでもこのままだとまずいです。
この程度の傷ならペクターが回復できるはずです。
でも、そのペクターに動く様子がないです。
「さーてと。他にも仲間がいたんだったなぁ? そいつらならベルトレットを出すか? ただ一緒にダンジョンに入れられた時いなかったな。コイツらに嫌われてるのか? 噂レベルでも勇者パーティなら見たってやつがいるだろ」
少女はそこで姿を消したです。
瞬間移動。テレポート。
高位の魔法を少女の体でいともたやすくおこなっていたです。
肉体が変わっても実力はそのままです?
「……ペクター。しっかりするです」
ペクターはあたしの声に反応しないです。
「……ラウル。逃げるです」
きっとこの声はラウルには届かないです。
それに、あたしたちのしてきたことは、ラウルから信頼されなくなって当然です。
でも、ラウル。あなたはあたしたちの仲間です。
せめて妹を守って、あたしたちの分まで……。
「…………」
――――――――――――――――――――
【あとがき】
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