第44話 ラウルの体に入る神と大魔王
「ラウル様の体をお借りします」
ヨーリンが言った。
「……は?」
俺はすっとんきょうな声を漏らしてしまった。
スライムの対策が俺の体を借りる?
「いやいや、それなら必要ないだろ。どういうことだよ」
「ワタクシの力をラウル様に使っていただくためです」
「それは神ができないって。それに俺の足が痛んだだけだったじゃないか」
「ここに来るまで考え続けていたんです。どうしたらラウル様に力を使ってもらえるかって」
仲間を飲み込んだスライムをヨーリンの力なら対処できるってのか?
確かに、俺の力じゃどうにもできない。
だが、ヨーリンはできないと決まったことに対してどうやってできるかを考えていたと?
「神様。神様はラウル様の体を常に確認していますね? 自動的に」
「ああ。精神汚染スキルや毒の類を防ぐためにな。それくらいならば我ら神でもたやすい。条件がなくとも叶えられる奇跡だ。だが、邪神を倒すほどの奇跡となるとそれ相応の条件がなければ与えられない」
「なら!」
思わず声を上げてしまう俺に、影であるヨーリンは冷静になれとでも言うように冷たくなった。
「ラウル様にそのような犠牲を払わせるつもりはありません」
「じゃあ、どうするってんだよ」
「神様とワタクシでラウル様の体を半分に管理するんです」
「何言って」
「なるほど。それならばどちらの力も干渉せず、大魔王の力を使うことも可能かもな」
「はぁ?」
かもってだけで俺の体を試しに使ってみようっての?
「無茶言ってくれちゃって。俺の体よ?」
「確かに、体をわけて管理することは可能なようだ」
「聞けよ!」
こいつら全く俺の話を聞こうとしないじゃねぇか。
「俺はどうなるってんだよ」
「なら聞くが、他に貴様の妹たちを助ける方法があるのか?」
「それは……」
「そうですわ。ラウル様、ワタクシと神様の意見が珍しく合致しているのです。次にこのような場面が来ることはないかもしれません」
「お前らの言う通りかもしれないが」
確かに、俺は対処法を思いついていない。
ラーブのスキルを使うという、わかりやすい解決策を見つけたせいで、想像力が働いていない。
なら、今回の作戦をやるべきなはずだ。俺は俺を犠牲にしてでも仲間たちを助けるべきだろう。
これまでだってそう考えてきたじゃないか。
仲間が傷つくよりかは俺が傷ついた方が、まだマシだ。丈夫なのが俺のスキルの取り柄なんだ。
「ワタクシだってラウル様の体にスキルを与えるだけです。体の支配権を奪ったり、意識を奪ったりまではしません。と言うよりできません」
「我もそのような真似ができるなら、どこぞの子どもに対し力を使い肉体を支配して好きなように世界を作り変えているわ!」
「わかったよ。だが、色々と気持ち悪いだろ。もう少し準備を、くっ!」
今回の回避はギリギリだった。
攻撃に対して甘い対処を繰り返していたせいか、スライムの大きさが気づけば部屋の天井に届くほどになっている。
前の俺ならもうすでに潰されていただろう。
俺のスキルが一人でも発動するようになったからこそ、アルカが囚われていてもなんとか対応できているが、それも時間の問題。
「楽しそうにおしゃべりとは、随分と余裕だな。仲間がオレサマの体内に囚われているというのにお構いなしか。白状者め!」
邪神はスライムの体で器用に俺のことを笑っている。
「……」
「どうした、図星で何も言い返せないか。絶望したか? 心が折れたならそうだな。いい条件を与えてやろう。一度オレサマに飲み込まれろ。そうすれば神もヨーリンも切り離し、ただの少女として世界に放ってやる」
「そうか。俺だけ助かるためならそれもいいかもな」
「だろう? どうだ。クズ人間。安穏とした市民としての生活のため、戦いを捨て仲間も見捨て、全てを諦め、オレサマに屈服するか?」
「いいや、断る!」
「なに?」
「神、ヨーリン。やってやんよ! 力を貸せ!」
「その言葉待っていたぞ」
「その言葉待っていましたわ」
神とヨーリンの言葉が口々に響き渡った。
「あぁっ!」
ヨーリンが初めてスキルを貸そうとした時のように右半身が焼けるように痛い。
だが、その痛みは一瞬だった。
すぐに、痛みがなくなると体の内から力が湧き上がり、満ち満ちるのを感じる。
「「「ダークアンドライト」」」
自分の体が自分以外の意思で動かされているのがわかる。
神とヨーリンの意思が同時に混ざり合うような不思議な感覚。
まるで夢を見ているようなはっきりとしない意識。
「これは……」
気づけば服装や肌、髪の色まで変わっている。
左半身は白く童話に出てくるような天使のような見た目。髪は透き通るような金髪になり以前よりも伸びている。
右半身は浅黒く焼けた肌に鋭い爪、必要以上に布地の少ない、警戒するように教わる女悪魔のような見た目。髪は以前よりも黒くツヤがある。
両肩の辺りからは何か慣れないものが生えているような感覚があるが、これは一体なんだ?
「できるものだな」
「思った通りですわ」
「ちょっと待て、声帯は一つのはずなのにお前らの声で俺の口を動かすな。かなり気持ち悪い」
話そうともしてないのに口が動くのはとても変な感じだ。
それに、視覚も意識もだんだんとはっきりしてきたが、ほとんど自由に動かせない。
支配されないんじゃないのか?
「我慢してくれ、我も貴様の体を十分に動かせぬのだ。かなりの練習が必要なのだろう」
「申し訳ありません。ですが、この状況を切り抜けるには十分なはずです」
「見た目を変えたからって今更何ができるというのだ!」
スライムは勝負を決めにきたのか、体を伸ばし逃げ場もなくし、俺を押し潰しにかかってきた。
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【あとがき】
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