第19話 勇者の窮地

 仲間のおかげでなんとか追っ手に追いつかれることなく街まで辿り着いた。


 だが、この街が蹂躙されるのも時間の問題だろう。


 あの爺さん。俺を生かしたのは勝手に死ぬから殺す価値もないってか? 自分で苦しめってか?


 それとも、気付いてない? 俺が今でも協力できると?


 わからん!


「ああ! イライラする。世界が俺をバカにしているのが腹立つ」


「世界はベルトレット様をバカにしてないです」


「そうか? まあ、そうか。生きてるってことはそういうことか」


 さすがカーテット。ナイスフォローだ。俺のことをよくわかっている。俺の価値も。


 今いる街は既に破壊し尽くされたあそこと違ってすでに警戒している。


 街の外には衛兵が出ていた。


 俺が多少回復する時間稼ぎぐらいはしてくれるだろう。


「どれだけ持つかな? それまでにまともに動けるようになるといいが」


 俺は自分が来た方を見た。


 その方向からは今も魔法や武器のぶつかる音、衝撃が響いてくる。


 今の俺ではそこに交わることすらできない。


「そういえば教会には行ってなかったな」


「そうですわね。もしかしたらベルトレット様が回復できないのは呪いのせいかもしれませんわ」


「どう思う? ペクター」


 俺の言葉に普段ならすぐに答えてくれるペクターが、今回は黙り込んでしまった。


「どうした?」


「いえ、少し考え込んでしまって」


「そうか。わからないならそれでもいいが」


「そうじゃないんです。ただ」


「ただ?」


「私の見立てでは、ベルトレット様の回復ができないのは呪いではありません。しかし、教会は神聖な場所。力が強まり何かわかるかもしれません」


「じゃ、ひとまず教会に行ってみることにするか」


 俺は仲間たちに支えられながら教会まで移動した。




 教会の中には街の侵攻を防いでくれるようにと、神に祈っている人が大勢いた。


 皆が一様に怯え、恐怖し、ただすがりつくように神に祈っていた。


 そう、俺ではなく神に祈っていた。この勇者である俺でなく神に!


 まあ、教会はそういう場所だし、間違ってはいないか。


「これじゃ俺の話を聞いてもらうことはできなさそうだな」


「そうです。ゆ。ん!」


「今はそれを口に出すな」


 俺は慌ててカーテットの口を押さえた。


 今は勇者という身分を隠している。バレたら面倒だからな。


 回復してないのに戦うことになるなんてたまったもんじゃない。


 俺たちは人に聞かれないよう、端に移動した。


「私はペクターと違って別に力が強まることはありませんけど」


「まあ、聖職者くらいじゃないか? 教会で力が強まるのは」


 確か、祈りの強さによって使うスキルの効果が強くなるのは聖職者だけだったはず。今の俺はさっぱり使えないがペクターがいるから困らない。


 回復や味方の強化なんて大それたことができるのも神のおかげなんて話だ。


 今の状況を見れば、神は人を救ってくれなさそうだがな。


「どうだペクター」


「はい。やはりベルトレット様は呪われていないようです」


「そうか」


 教会まで来たが、ダメだったか。


「となると、別の理由ってことか?」


 俺は特に悪いことしてないし、むしろ世界をよくするために貢献している。


 そんな俺を苦しめることなど、むしろ悪と言っていいだろう。


 なら、俺を苦しめているのは誰だ?


 用が済んだため、俺たちは息の詰まる教会を出た。




「そうだ! 黒龍のせいだ」


 教会を出るとなんだか解放された気分になった。それだけでなく疑問が急に解消した。


 やはり、あんな場所息が詰まるだけだ。人が集まって捧げる祈りが俺に対してじゃないのが気に食わない。そもそも別に集まる必要はないんじゃないのか? 熱いし。


「黒龍です?」


 カーテットは俺を不思議そうに見てきた。


「そうだ。黒龍だ」


 誰もすぐには納得しない。これは説明が必要なようだ。


「黒龍はやはり悪いやつだったんだよ。俺の体に回復できないような細工をして、巨龍や魔王軍をけしかけたんだ」


「なぜでしょう?」


「それは決まってるだろ。俺を疑う人間を生み出すためだ。さっきの爺さんだってそうだ。俺を疑う理由に黒龍を倒したことを挙げてた。そうに違いない」


 ほら見ろ。俺は悪くない。そして、黒龍のせいじゃないか。


「はーはっは! これでわかった。解決だ。なら、時間が経てば俺の体も回復するってわけだ!」


「なら、私の回復も無駄じゃないのでしょうか?」


「そんなことはないさ。完全に回復できないなんてことはないはずだ。効果が薄くなっているだけだ。今だって」


 俺が推理を披露していると、突然、目の前にあった教会が跡形もなく吹き飛ばされた。


 そう、建物が突如としてガレキの山に変わってしまったのだ。


「な、何が起きた?」


 速すぎて見えなかったのか? この俺が? それなら、今の俺では対処できない。


「人間か? 貴様らに用はない」


 教会を壊したやつなのかガレキの上から俺を見下してくるやつがいる。


「ベルトレット様を守るです」


 カーテットが前に出た。


「うざったい」


「ああっ!」


 軽く吹き飛ばされた。


「ベルトレット様、逃げてください」


 リマが詠唱を始めた。


「遅い」


「うっ!」


 呪文が完成する前に薙ぎ払われた。


「エンハ」


 ペクターがエンハンス魔法をかけようとしてくれた。


「もう無駄だろそれ」


「あぐっ!」


 軽く笑いながらペクターを俺の視界から消しさった。


 どうしてだ。視界がぼやける。


 怖い、のか?


 そんなわけない。俺は勇者だ。世界を守る救世主だ。たとえ怪我していようと恐怖なんて感じない。


「ラスト一人になっちゃったなぁ。どうした。動けないか?」


「……」


「なんだそのフード、変わってるな。男か女かもわからない。みんなお揃いか? 仲良しだなぁ」


「来るな」


「なんだよ。ハブるの? ひどいなぁ、人間は仲良くしてくれないのか?」


「ち、近寄るな」


「あっそ。じゃ」


「うわあああああ!」


 情けない声。ものすごい叫び声が聞こえた。


 それは、俺の口から出た声だった。


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