第3話 <クマ出没注意>
先ほどまで騒がしかった森に静寂が訪れる。うっそうと茂ったの緑の下に、血しぶきを浴びた大岩が
すると徐々に、悪人とはいえ大量の人を殺めたという実感が湧いてくる。
とはいえ殺らなければヤられていたさっきの状況、これは仕方のないことだと自身に言い聞かせひとまず現場を離れることにした。血の匂いや大きな音につられて獣でもよってきたら今度こそ助からない。
そもそもサバイバルするための技術や知識を何も持ち合わせていない俺にできることと言えば、何も考えずに歩くことだけだしな。と、ずんずん進んでいく。
「イテッ!!」
…アリアネの長髪が何度も植物の枝に引っかかってそのたびに痛い。輝くような薄紫色をした美しい髪だが、正直森を歩く上では邪魔でしょうがないな。
それに加え俺はおっさん、無事この森を抜け出せたとしても女性の髪のケアの仕方になど慣れていないのでキシキシに痛むこと請け合いだ。元々の体の持ち主である彼女には申し訳ないが、バッサリいかせてもらうことにした。
さすが異世界の森というべきか、幸いにも刃物のように鋭い葉が生えたいかにもファンタジー風な植物を見つけることができた。コレを使い肩にかからない程度に後ろ髪を切り再び歩を進める。ただこの植物、使う分には良いけど転んだとき下にでも生えてたりしたら普通に死ねるな…。
そして俺は歩きながら、自らに宿ったあの能力についての思案を巡らせることにした。
まず分かったことは2つ。1つ目は、誘導灯は自由に出し入れが可能ということ。「出ろ!」と念じたら右手に現れて、「消えろ!」と念じればスッと消える。…果たしてこれを「出し入れ可能」などという言葉に収めて良いのかは分からないが、ひとまず荷物になる心配がないのはありがたい。
2つ目は、具体的な標識を浮かべなくても勝手にいい感じのものが出てきてくれることだ。先ほど発動した2回の例がそれを物語っている。
とすれば、今誘導灯を振るとなんの標識が出るのだろうか。誘導灯を出しエイッと振る。
すると現れたのは大きな交差点でよく見る、青い四角形に白い矢印で行先の方向が示されたあの標識だ。相変わらず半透明だし大きいが。矢印は正面と左の2方向に延びており、それによると正面は「スブテラ洞穴」、左は「アルデシリア首長国連邦」という場所らしい。
そのまま進んでいたら訳の分からない洞窟に行き着く羽目になっていたとは、やっぱり見知らぬ地を考えなしに進むのは迂闊だったな。まあ、アルデリシアも俺にとっては訳の分からない国に過ぎないのだが、少なくとも洞窟よりはマシだろうということで進路を左に変更する。
帝国以外の国の情報が全く頭に入っていないことを考えると、どうやらアリアネの記憶と俺の記憶が完全にリンクしたという訳ではまだなさそうだ。
まあ、今後記憶が完璧になるという保証は全くないんだけど。
……休まず歩けば暗くなる前に森を抜け出せるだろうか。国のある方向は分かったものの、肝心の距離が分からない。ただ、歩いていればいずれ人の住むところにたどり着くという情報はかなり大きい。漠然とした不安は残ったままだが目的がはっきりしたことで少し気持ちが軽くなる。取り敢えずしばらくは無心で歩けるかな。
と思っていたが、どうやら違うらしい。出口の見えない探索に光が見えたことで、逆に注意が散漫になってしまったのだろうか。俺は
胴体や顔は緑の体毛で覆われているが腕の先に近づくにつれてその毛の色は黒に近づいてゆき、闇を切り取ったような漆黒を思わせる巨大な掌からは、人間1人を軽く串刺しにできるような凶悪な鉤爪が3本伸びている。「悪魔」と形容するにふさわしいその怪物からは鼻腔を突き刺すような血の臭いが漂っており、その刺激臭は俺に死を覚悟させるには十分だった。
気づけば俺は例の誘導灯を振ろうとしていた。今までのように何か都合の良いことが起こって欲しい、いや起こってくれ!いや起こってくれなければ困る!いや死ぬ!生前はただの光る棒きれとしか思っていなかったソレを、縋るようにして振り下ろす。そしてその行動により現れたのは
〈クマ出没注意〉
知っとるわ!!!!!!!!!!!!
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