第95話 狭隘
「敵は山と山との狭隘部へと入ったという報告がありました。好機です」
ラクシンからユリシスへと伝えられる。このまま回り込めば後方を扼す形になる。あちらは一万人、こちらは四千人だ。初撃でどれだけひるませられるかが鍵になってくる。山を抜けられてしまうとあとは平原や草原が続く。躊躇している暇などない。少数の利点を活かし切る機会がそうあるとは思えない。
諜報力ではこちらが優れているという自負がある。できる限り相手の偵騎は排除してきた。相手にしてみれば、自らが放った偵察が戻ってこないのだから、それは敵がいるという何よりの証になる。敵の警戒レベルは引き上げられたとみていい。相手は大軍だ。あえて相手にする必要がないと考えているのか、威力偵察でも行っていると見ているのか。
ユリシスは膝をつき、手を合わせる。
「神のご加護を」
その言葉が合図であったかのように、四千の兵が動き出し、ユリシスの脇を通り過ぎていく。
「俺たちも行くとしよう」
差し伸ばされたランサの手を取り、ロボに飛び乗る。
「先鋒は譲れないな、飛ばすぞ、姫様」
ロボが加速する。瞬く間に兵を追い抜き、先頭に出る。同時に眷属を召喚する。敵は反転し、防御体制を取る。やはりという思いもあったのだろう敵将の判断は的確だ。
「しかし、ちょっとだけ遅い」
ユリシスはつぶやくと左腕を掲げる。中指の聖刻神器に力を注いでいく。
「グラベーリン! ヨールド・ヴォル!」
ユリシスの詠唱とともに、土が盛り上がっていく。敵勢のちょうどこちらから七割あたりに、まるで城壁のような土塊が立ち上がる。敵兵は前後に分断された。
「ヴァリゲ・ショール!」
ランサが防御結界を展開する。そして続けざまに火炎精霊術を放つ。
「フロマキューレ!」
相手も防御結界を張るがタイミングが遅い。ランサの放った炎弾の半分ほどが相手に命中する。その傷口をロボは見逃さない。
「抉る。しっかりとつかまっていてくれ二人とも」
ロボと眷属たちはまるで、敵軍に突き刺さった槍。ロボの合図で一斉に咆哮を放つ。この一撃で敵の前衛の中央が吹き飛ぶ。できた大きな穴に味方の兵がなだれ込む。敵兵は押し込まれるが、後ろにはユリシスの作った城壁があって思ったように後退できない。勢い左右の斜面へと引いていく。
ユリシスは斜面を見上げる。敵の動きが良く見える。
「グラベーリン! トルドゥン・トルドニィス!」
薄くなった防御結界を突き破って、雷撃が斜面を直撃する。敵兵が手足をもがれながら吹き飛んでいく。雷撃は兵士だけでなく木々をも薙ぎ払う。敵兵が下敷きになっているようだ。そこに味方兵が追撃を掛ける。
初撃の痛打で勝負が決まったかと思われたが、敵兵は残った兵を集結させ、組織的に攻撃してくる。さすがに強国の誇る精鋭部隊だ。補給部隊の護衛兵とは違って粘りがある。
「ロボ、下士官を狙うように眷属たちに命令を」
組織だった抵抗ができるのは十人、二十人の兵を取りまとめている下士官が優秀だからだ。そのお陰で兵の崩壊を防げている。頭さへ刈り取ってしまえば、あとは烏合と化す。ロボの眷属たちが動き出す。ここさえしのげば、こちらの被害は少なくて済む。
「ランサ、お願い!」
ユリシスがロボから飛び降りる。ユリシスの声を受けてランサも跳ねる。ユリシスの援護のためだ。
「出番だね。派手に踊るよ!」
ロボから飛び降りたユリシスは右腕をそっと撫でる。腕が光り輝きはじめ、剣状に変化する。
「ハッシキ頼んだわ」
ユリシスが右腕を突き出すと、剣が真っ直ぐに伸び、他の兵とは違う上等な鎧を身にまとった士官の胸を刺し貫く。くるりと身体を半回転させると、鎧ごと切り裂かれ、士官はただの肉塊へと変わる。
ユリシスの作り上げた城壁で分断された上に、中央を突破された形の敵勢の後ろ半分は、四分五裂しつつある。
ユリシスは額に汗を浮かべる。
「まだ敵は残ってる」
ユリシスは剣を引き抜くと血を払う。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます