第56話 化外

 ランサは呼吸をゆっくりと整える。男に動揺を悟られてはならない。影が動かない。つまり、この影は作り物だ。となるとこの男の正体は一体なんなのか? 恐怖と戦いながら、平静を装うランサは、自分を落ち着けるように考える。

 化外の者であるのは間違いない。問題は害意があるかどうかだ。ないのであれば恐怖と戦って、明日を待てばそれで解決する。

 しかし、なぜ自分にだけ分かるのか? ユリシスやロボはどうして気が付かないのか?

 自分では特に感受性が強い方だとは思っていない。むしろそれであれば聖獣のロボの方が秀でているはずだ。


 部屋に案内され、ダッシュボードの上のランランに火が移される。やはり影は動かない。その様子をランサはじっと眺めている。

 話すべきかどうか迷った。ユリシスにもロボにも余計な心配は掛けたくないのだ。

 しかし、第一に考えるべきがユリシスの安全だ。ランサは話す決意をした。

 ユリシスはすでにベッドの上で寛いでいる。ちょうど頭の横でロボは丸くなっている。

 ランサは小声で話し掛ける。どこかで聞かれているような気がしたからだ。


「姫様、姫様……」


 すでに寝入ろうとしているユリシスを揺さぶると、ゆっくりとした口調で話し掛ける。ロボの耳がピクリと動く。


「慌てずに聞いてください。この街の住人には影がありません。おそらく人間ではないでしょう」


 ユリシスはその一言で目が覚めたようだ。ロボも起き上がる。ランサには分かって、ユリシスたちにはなぜ分からなかったのはは、不明としか言いようがない。


「最悪、戦いになるでしょう。嫌な予感がします。何も起きなければそれでよしです」


 ユリシスはランサを説明を聞いていた。そして得心がいったのだ。あの集落でのランサの応対とその後の体調の急変に。


「今から逃げ出した方がいいかしら? いやそれはダメね。逆に相手を刺激してしまう。時間が過ぎてくれたとしても、害意があるのであれば、明日だってどうなるか分からないわね」


 ユリシスはランサの言葉を信じた。いや最初からランサを信じている。ここは何らかの災いがあるという前提で動いた方が無難だ。すぐに対応できるからだ。


「影の無い化外の者たち? ロボ、ハッシキ、心当たりある?」


 二人は無言だ、どうやら心当たりはないらしい。


「でも妙だよね。まるで引き寄せられるように、あの集落に着いて、この街を教えられた。ボクたちの方から進んで罠にはまったみたいだよね」


 ここに誘われた理由があるとハッシキが言うのだ。


「それと不思議なのはなぜランサにだけ影の秘密が分かったのか、だね。ボクたちは全く気が付かなかったんだもの。ランサがいなかったら危なかったかも知れないね」


 ユリシスにも思い当たりはないので、ハッシキの言葉に頷くしかない。ないが動きがあるとすれば間違いなく今夜になる。

 しかし、一体何のためにここにおびき寄せられたのか、何かヒントがほしいところだが、外に出て探るわけにもいかない。聞き込みも不可能だ。相手は敵なのだから。


「久しぶりにゆっくりと休めるかと思っていたけれども、ちょっと計算違いね、しょうがないわ」


 それぞれ交代で仮眠をとる。

 ロボはある種、化外の者だといっていいだろう。召喚された聖獣で世界に一体しか存在しない。お化けや幽霊の類なら存在している。現にハッシキという魂がユリシスには宿っている。それと同じようなものなのだろうか? ユリシスは怨霊の類を連想する。


「力はそれほど強くはないのかもしれないわね」


 ロボが顔を上げる。一番疲れているであろうランサを無理やりに寝かせたのだ。眠りは浅くとも、横になっているだけでも疲労は回復する。


「それってどういう意味?」


 ハッシキの問い掛けに、ロボにも聞こえるようにユリシスは話し始める。


「だって、そうでしょう? 元々強い化け物であったのなら、最初から直接攻撃してくればいいだけの話しじゃないの。ちょっと手が込んでいるのだから、相手にも自信がないんじゃないかしら?」


 誘い込んだのではなく、誘い込むしか手がない。ユリシスの考えは自然だ。


「確かにそうだな。気配を察知できるのであれば、俺たちがそう弱くはないとすぐに分かるはずだ。それでもこうやって罠を張った。逆に油断できないのではないか?」


 ロボの言葉は至極まっとうだ。


「だったら話しは簡単だよ。相手は精神攻撃を仕掛けてきている。ボクたちを困惑させようとしているに違いないよ」


 だがそれは通用しない。聖獣の国でもらったアクセサリーがあるからだ。精神攻撃にも抵抗が働いている。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557963428581#reviews

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