第42話 聖刻
聖獣側は試行錯誤しながら送り出すべき人材を育成していた。当然だが初めて聞く話しだ。そもそも、なぜ聖女に聖獣が付き従っているのかすら知らなかったのだ。
「ですから、ロボには再度、修練を受けてもらいます。そうしなければただの足手まといでしかない」
あなた方も一緒に訓練を受けて見てはいかがですか? ロンドに促されてしまった。こちらの聖獣の国は聖霊力の密度が人間界とか比べようもなく高い。そのため、こちらでの数時間の訓練が、人間界での数年に匹敵するほどの効果があるという。
「特段に訓練しなくても、ここに滞在するだけでも力になるほどですから」
ユリシスはともかく、ランサは今でも充分に強い。それが更に磨かれると聞いてランサは目を輝かせている。
「そちらのランサ殿はともかくとして、実を言うと聖女様には問題というか課題がございます」
ユリシスは身構える。確かに自分には力が足らないのではないかという疑念がいつもつきまとっていたのだ。
「力の使い方が間違っているのです。膨大な聖霊力を持ちながら、その百分の一も力を引き出せていない」
まずはその聖なる心臓をどうやって使うのか知っていますか? その問い掛けにユリシスは首を振る。
「単なる刺突器具ではありません。その道具の正確な名前は聖刻神器と言うのです。使い方はこうです」
ロンドは立ち上がると、人差し指で中空に印を描いた。その軌跡が浮かび上がる。すると刻印から水が溢れ出し、カップを満たしたのだ。
「これはほんの児戯にすぎません。刻印には幾つもの種類があり組み合わせもある。聖女様の場合、聖霊力はその聖刻神器を通してのみ大きく発動されるのです。いかがですか、学んで帰っては? きっとお役に立つでしょう」
ユリシスはロンドの話しに驚嘆したと言っていい。この聖なる心臓にそのような力が込められていたなどとは……。
「ぜひご教授ください。私も強くなりたいのです」
ユリシスが立ち上がると、ランサも一緒に立ち上がり、深々と頭を下げる。その様子をロンドは微笑みながら見ていた。
「お二人にはそれぞれに腕利きの教官をお付け致します。もちろん私も直接ご指導申し上げましょう。ロボ、お前は私が直接指導する覚悟するように」
ロンドによると、ロボには属性が不足しているという、それが原因で聖霊力と属性との力のバランスが上手く取れないのだ。生まれ変わるつもりで属性の付与と力の再構築が必要なのだそうだ。
「長老、その訓練に加えて身につけたい術がある。それも教えて欲しい。これから絶対に必要になる」
ロンドにはロボの欲している技が何なのか分かっているようだ。
「ランサ殿はすでにかなりのレベルに達している。聖女様におかれてもコツさえつかめば目を見張るように伸長するでしょう。問題はこのロボです」
ユリシスは一つ頭に浮かんだ疑問を口にする。
「人間界において聖獣を呼び出すには数年の時間が必要なのです。再び私たちが戻るためにもそれだけかかるものなのでしょうか?」
ロンドの回答は明快だった。術式の読み込みに時間がかかるのだそうだ。なので一回読み込みさえできていれば、あとは聖霊陣を描くだけで移動は可能だという。
聖霊陣は玄関で、術式が鍵。鍵さえあれば玄関への出入りはいつでもできる。理屈としてはそうなる。
ただし、鍵はその聖獣専用になるので、もしロボではなく別の聖獣を連れて帰りたいのであれば数年の時間がかかる。もちろん、ユリシスはロボと一緒に帰るつもりだ。
「ひとつ分からないのはその腕にやどったハッシキ殿です。私にはその正体が見えない。聖獣ではないのは確かです。そもそも聖獣の魂だけが分離し形を変えて人間に取り付くなどあり得ない」
ハッシキは自分が聖獣に近いのではないかという憶測を語っていたが、どうやら違うようだ。
「ボクの存在はボク自身で見付けるよ。もしかしたらここにいれば何かヒントをもらえるかもしれないしね」
ハッシキはそう気にもとめていないようだが、ロンドは少しだけ眉根にシワを寄せる。
「失礼致しました聖女様。我々は寿命が長い。それだけ探究心も強いのです。お許しください。差し出がましい口を聞いてしまいました」
ユリシスは手を挙げて、ゆっくりと笑顔で応える。
「大丈夫ですよ。このハッシキも呑気者ですから、分かる時はきっとくるぐらいの気持ちですから」
こうしてユリシス一行のスズモリ滞在が決まったのだった。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます