第17話……食糧危機と金

――カリバーン帝国大敗、リヴァイアサン大要塞陥落。



 大きな見出しのニューステロップが流れる。


 続いて、帝国に味方していた地方有力者が次々と独立宣言を行うのが報道された。グングニル共和国との戦いに帝国が負けた場合に備え、共和国からの報復を回避するためである。



「節操がないなぁ……」


 私はこの世界のテレビを見ながら、そう呟いた。

 確かに敗戦は一大事なのだろうが、ゲームの世界なのか、私にはイマイチ実感がわかない。


 しかし……強きに従い、弱きをくじく、か。

 嬉々として民衆に手を振り、帝国を見捨てる地方領主たちに辟易した。



「皆、支配星系の民がおりますから、しかたありませんわ」


「なるほどねぇ……」


 クリームヒルトさんに言われても、イマイチピンとこない。自分が凡庸たる所以なのだろう。その後も、テレビ番組は帝国の惨敗ばかりを告げていた。



『……続いて、今日の経済です』


 ほぉ、この世界も経済番組があるのか。支店長に毎晩見ておけとかよく言われたな……。



「……は?」


 経済情報番組の内容に目を疑った。

 食料や資材、燃料が40%以上も値上がりを見せているのだ。たった一日で。



「戦争に負けそうですから……ね」

「逆転して勝つポコ!」



 よく支店に来ていた銀行マンの言葉を思い出す。『信用の無い国の通貨は下落する』だ。

 この世界の場合、敗戦で信用力が弱くなった帝国ドルの下落に対して物価が上がるという訳だ。きっと逆転するだろうと思うタヌキ軍曹のような人は少数派だ。

 更に、下がるモノはより多く売られ、上がるモノはより多く買われるため、物価は更に上昇する気配を見せていた。




☆★☆★☆


「大変ポコ! これを見るポコ」


「どした?」


 テレビを見ながら皆でお昼を食べた後。部屋で歯を磨いているとタヌキ軍曹殿が慌ててやってきた。



「コレを見るポコ」


「なになに?」


――御社の鉱山が魅力的なので、是非わが社と取引してください……!?

 物価上昇にともなう資源価格高騰を予感した商人からの買い付けの申し出だった。



「素敵ですニャ~♪」


 いきなり部屋に入ってきたマルガレータ嬢に抱き付かれる。

 彼女の両目は既に『$』マークだ。


 『そうだった!』と思い出す。 

 ……彼女はお金にとても目がないのだ。


 モテたと勘違いをすると、とても危ない。

 ふかふかした尻尾が名残惜しいが、離れてもらうことにした。


 嬉しそうにパタパタ尻尾を振る彼女の隣で考え込む。


――取引も悪い話ではないか。



 こうして、我がハンニバル開発公社は借金苦から脱出することに成功した。




☆★☆★☆



「お酒がないポコ!?」

「お肉もありませんわね」


 クリームヒルトさんたちと惑星リーリヤでの大型食品店に買い出しに行く。が、肝心の商品がない。

 お魚も無ければ、肉もない。野菜は目が飛び出すほどの高値だった。

 どうやら業者さんによる売り渋りのようだった。お金の価値が落ちるとこのような事態になるのだろう。


 実は衛星アトラスには酒造や食肉事業が発達していない。困った事態になった。

 誰しも美味しいご飯は食べたいものだ。

 次のプラント建造には、お魚の養殖やお野菜の栽培プラントも建てよう。お金はすこしかかるけど。





「よかろう、何とかしてやる」


 蛮王さまに携帯で連絡をとると、肝心の食料に関しては快諾を得た。



「しかし、協力してほしいことがあるのだが……」


「お世話になっているので、なんでもやりますよ?」


 蛮王様の依頼は、金鉱発掘だった。

 なんでも、新しい信用のあるこの星独自のお金を作るらしい。

 このまま食料の売り渋りが続かないようにするらしい。ぜひ協力しよう。




☆★☆★☆


 宇宙港よりハンニバルを飛ばし、上空から鉱脈の調査を行った。

 雲の切れ目から、山脈や砂漠、荒野を見渡した。

 私には、通称『美味しいリンゴを見抜く目』こと羅針眼がある。検査機器や惑星リーリヤの技術者とともに探査を図り、三日後には成果を上げることに成功した。

 かなり眼は疲れたけれども……。どうやら使いすぎは良くないらしい。




 その後、工場で精製した金のインゴッドを皆で見せてもらった。持ち上げるのにとても重く、まばゆい光を放っていた。ちなみに現実世界では見たことがない。


「奇麗ですわね」

「ピカピカぽこ」

「強奪しましょうニャ♪」


 一人眼が『$』になっているマルガレータを引き摺りながら、今晩夕食に誘ってくれている蛮王様の元へ向かった。

 金精錬所があった工場地帯から、情緒あふれる蒸気機関車にのった。夕方には惑星リーリヤの首都フレイムの駅に着く。



「あそこを見てください」


「ぽこ?」

「ん?」


 陽が傾くリーリヤの空に、この星の月である衛星アトラスが昇っていた。

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