第一話 ② ~コンビニのバイトは愉快な先輩と共に~

 第一話 ②


 彼女とは少しだけぎこちなく会話をしながら、自転車で二十分程の距離にある彼女の自宅まで送り届ける。

 少しだけ名残惜しそうな彼女に別れを告げ、俺はそのまま自転車で駅まで走る。


 有料の駐輪場に自転車を預け、構内で十分程待つとやってきた電車に乗り込み、三駅先の自宅の最寄り駅まで移動する。


 そして、無料の駐輪場に停めて置いた愛車のポチ(中古のスクーター)に跨り、バイト先のコンビニへと向かった。

 校則ではバイク、スクーターでの通学は禁止する。とあるが、バレない程度ならまぁ問題ないだろうと自宅から駅まではポチで移動している。


 駅からそこそこ距離のあるバイト先まで自転車で行くのは流石に少し億劫で、初めてのバイト代で免許を取得し、二回目のバイト代で中古のスクーターを買った。

 父親の友人を経由したので、五万円ほどで愛車のポチを手に入れることが出来た。


 ポチを走らせること二十分。自宅から少し離れた所にあるバイト先へと到着する。

 ヘルメットを脱ぎ、スマホを見ると時刻は十六時四十分。少しだけ早く着いてしまったようだ。十七時から二十二時までの五時間のバイトだ。


 おはようございます。と、レジで既に働いている同じアルバイトの従業員に声をかけ、スイングドアを開けバックルームへと入る。

 更衣室でユニホームに着替えると、スマホが震えた。


『今週末の日曜日って空いてるかな?初デートとしゃれこもうぜ!!』


 メーセージアプリのRAINで、彼女からデートの誘いが飛んできていた。

 俺のバイトは基本は月水金土の週四勤務。日曜日は他のバイトが急用が出来たとかそういう事が無い限りは空いていた。


『大丈夫だよ!!誘ってくれてありがとう!!』


 返信したメッセージに直ぐに既読が付き、


『えへへー、やっぱり初めての彼氏だからテンション上がっちゃった!!』


 と返事が返ってくる。

 その返事の早さと内容に少しだけ嬉しさを感じながら、


『じゃあデートコースとかは後ですり合わせしよう。俺はこれからバイトだから二十二時まで返信出来ないけどごめんね』

『いーよいーよーお仕事頑張ってね!!』


 ニマニマと笑みを浮かべていると、


「随分と楽しそうじゃないか少年」

「……え?」


 突然頭上から声をかけられ、俺はスマホから目を離し頭を上げる。


「おはようございます、司さん」


 目の前に居たのは、大学二年になる女性の北原司きたはらつかささんだった。

 背が高く、ショートカットで、すらっとした肢体は一見するとイケメンアイドルのような容姿だが歴とした女性だ。


「おはよう少年。で、どうしたんだ?そんな嬉しそうにスマホなんか眺めて。推しのURが単発で出たのか?」


 俺のオタク趣味を知っている司さんは、ソシャゲのガチャになかなかの金額をぶち込んでいることを知っている。


「いや、違いますよ。……ガチャは爆死しました」


 俺は首を小さく振ると、ちょっと前に爆死したガチャを思い出し、陰鬱な気分になった。


「そうか、ガチャは爆死したのにその表情。一体どうした?」


 少しだけ興味深そうに聞いてくる司さんに俺は、


「ガチャは爆死しましたが、告白は成功しました」


 とドヤ顔で告げる。


「ほう?あの少年が好きだと言っていた運動部の女の子か。良かったじゃないか!!」

「はい!!ありがとうございます」


 俺がバイトを始めた理由も好きな人も知っている司さんは、可愛い弟分に彼女が出来たのが嬉しいのか俺の肩をバンバン叩いてきた。

 まぁそれも嬉しい痛みではあるけど、いや、ちょっと……え、かなり痛い……痛い!!


「つ、司さん!!痛いですよ!!」

「ははは!!このくらい我慢したまえ!!彼女の父親を前にしたらこんなもんじゃないぞ」

「……いや、まだ気が早いですって」


 遊びで付き合うつもりは無いが、父親に挨拶はまだ早すぎる。そんな覚悟なんてまだ無い。


「まぁでも良かったな少年。だが、油断するなよ?男女交際はここからがスタートだ」

「はい」

「彼女に愛想を尽かされ無いように、今以上に頑張らないとな」


 ニヤリと笑う司さんに、


「そうですね。これまで以上にしっかりと男を磨いていきます!!」


 と答える。

 そして、スマホを見ると十七時ちょうどになっていた。


「よし、では少年。君は店の外の掃除だ。私はその間に店内の掃除を進めておこう」

「わかりました!!」


 軽くコミュニケを済ませると俺はスイングドアを開ける。


 いらっしゃいませー


 と言いながら軽くお辞儀をする。

 よし、五時間しっかりと働こう。

 俺は少しだけ気合を入れると、ホウキとちりとりを持って店外の掃除に向かった。

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