残念なラブコメ(その5)「残念なラブコメ」(承)

・・そんな、芸能人のような彼を、私は好きになってしまいました。


きっかけは、私が所属する大好きな「演劇」サークルでの一コマ。


結論から言えば、「演劇サークル」をバカにされたんだよね。どうでもいいような奴から。


たまにいるじゃん?

「自分が理解できないことは、劣っている」果ては「存在すべきではない」とかなんか思いこんでしまう輩。


もちろん、世の中いろんな人がいるんだし、いろんな考えがあって当然。考えるのは自由だよ?

でもこの輩は、相手にも強要してきた。

・・・まぁ、相手にしなきゃいいんだよね。普通なら。


でもこの輩に関しては、そうもいかなかった。

大学内のサークルに、ある程度顔の利く奴だったのだ。


だから、やれ「学生の演劇など、お遊戯会の延長だ。」や、やれ「どうしてもやりたいならオペラや戯曲など、格式あるものをやるべきだ。コントなど低俗なものは、我が大学でやるべきではない。」とか、訳わからないことをほざいても、スルーとはいかない。「何時代に生きてるんだこいつ?」とか思ってもね。


こんなナンセンスなことを言ってる奴だ。下手に難癖をつけられてサークル活動費を減らされたり、・・活動停止などにされては堪らない。冗談のようだが、前例と思われるものもあるので、万が一されては事なのだ。


部長をはじめ、サークルのみんなもそれはわかっているので、やんわりと下手(したて)な態度で、相手に言わせるだけ言わせて満足させる、そんな大人なやり方でこれまで対応していた。・・もちろん、部員の誰もが我慢していたと思う。


そんなことが一度ならず何度か続いたある日、ついに爆発しちゃったんだよね。・・・誰でもない、この私が。


「コントはくだらない!?そんなのサルでもできる??・・だったらあんたがやってみなよ!?」


涙目だったね。情けない。


私のあまりの剣幕に、相手はビビってたよ。・・でもって、怒り心頭。

「あ、これはまずいな・・」と思っても後の祭り。さてどうしたものかと思っていると、


「・・・彼女の言う通りですね。「コント」もちゃんとした演劇。れっきとした文化の一つでしょう?」


たまたま、その場に居合わせた超有名人。


「不破星一」が関わってきたのだ。



「不破・・・おまえ、こいつらに肩入れする気か?」


彼は飄々とした態度で、当たり前のように返した。


「・・別に肩入れする訳ではありませんよ。どちらがより一般的と思うか指摘しただけです。・・・不当なことは許せない。そんな私の性格は、ご存じでしょう?」


「くっ・・」


「もちろん、あなたにも言い分があって、私や周囲を納得させられるなら、出しゃばってしまっているのは私の方です。謹んでこの場を立ち去らせて頂きますが?」


「・・・ちっ。」


輩は舌打ちをする。自分でも言っていることに正当性がない事はわかっているのだろう。・・・だが強気でいけば、自分が気に入らない相手側からぼろが出て、それを口実に相手を追いやれる。

多分そんな手だろう。実際にぼろを出した私が言う事ではないけど、姑息で矮小な手口だ。


だがここで大学、下手すれば全国的な有名人である、「不破星一」が関わるとは思いもよらなかっただろう。まぁ、私もだけど・・


「不破星一」自身は、あくまで一学生として振舞っており、特に大学に顔が効くような話は聞かない。そう言ったことを望まないのも、好印象の一つと言えよう。


・・・だけど、周りはそうはいかない。


いろんな意味で、出来れば自分の味方であって欲しいし、

・・・そうでなくても、敵には回したくない、そんな存在なのだ。


権力を振りかざすタイプじゃないけど、周囲から見た自身の立ち位置も多分わかっている。その気になればこんな矮小な輩より、よっぽどなことができかねないのだ。


「・・別に私は、あえてあなたと敵対しようとは思っていません。・・ここは私に免じて、引いてくれないか?」


「・・・・・。わかった。おまえの顔を立てて、ここは引こう。」


感情というより打算で、相手にすべきではないと判断したのだろう。輩は引き下がった。

・・無論、納得はしていないだろう。私、いや、演劇サークルに対する詫びはないし、むしろこちらを睨みつけてから、立ち去ったのだから・・・



「・・でしゃばってしまい、申し訳ありません。」


私の方を向くと、彼は頭を下げて詫びた。私は慌ててお礼を言う。


「お詫びだなんて!おかげで助かりました。ありがとうございます!!」


私は、彼以上に頭を下げる。


彼は頭を上げ、なんだか照れた様子で話す。


「・・いえ、私は思ったことを口にしたまでですよ。「コント何て低俗」だなんて、私は思えないですからね。古来から道化師という立派な職はあった訳ですし。・・・はは、何言ってるんだ、俺?」


意外なことにお礼をされ慣れていないのか、やや緊張の面持ちで続ける。


「・・それに、演劇サークルさんが真剣に取り込んでいるのは、何度か舞台を観させてもらって、感じていましたからね。真剣な人にはそれ相応・・までは行かなくても、できる限り不当な思いはして欲しくないのは本音です」


「・・・そう言って貰えて、嬉しいです。」


改めて深く頭を下げる。彼はまた慌てると、


「こちらこそ、一ファンとして、直接言えて嬉しいですよ。・・・あの輩に関しては、もう気にしないでおそらく大丈夫です。一度うまくいかなかった場合、大抵あっさり見限って、別の所に行くタイプなんです。一応私も、それとなく気がけておきますが・・」


なんともはや・・


「っと、ちょっと長引いちゃったな。では、演劇サークルの皆さん、活動頑張ってください。失礼します。」


腕時計を見て、慌てて立ち去ろうとする。改めて頭を下げ見送っていると、彼は不意に立ち止まり、


「あっと、日向さん。あなたの演技、とても良いと思います。これからも頑張ってください!」


不意にこちらを見、改めて私向けの激励の言葉を告げ、去っていった。


「あ、ありがとうございます!」


お礼の言葉は、彼に聞こえただろうか・・・



そんなことがあって、私は彼のことが気になるようになってしまった。・・単純だよね。


だけど、少なくとも今は、告白しようとは思わない。


そもそも格が違うと思ってる相手だし、上手くいく可能性がまずないというのもあるけど、それは別にしても、「演劇サークル」の兼ね合いがあるからね。

彼が言ったように、あの輩は引くかもしれない。けれど、弱みを見せれば、またつけ込んでくる可能性はあるだろう。


ここで私が告白をして断られたとして、私自身はスッキリするかも知れない。


でもその後、振った私がいるせいで彼が演劇サークルに来づらくなってしまったら、ここぞとばかり、またあの輩がつけ込んでくるかも知れない。

せっかく助けてくれたのに、そうなってしまっては水の泡だ。


だからこの想いを告げるにしても、あの輩が卒業するか、少なくともサークルの安全が確保されてから。残念だけどね・・・

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