二次会へ(拓夢)

「ごめんね。私のせいで、さっきの人に……」


「何で、凛が泣きそうな顔するんだよ!気にする必要なんてないんだよ」


「だって、また迷惑かけるじゃない。今のだって、おもしろおかしく書かれちゃうんだよ」


「怒らなくていいんだよ!おもしろおかしく書かれるのなんて、芸能人ならよくある事だよ。あの人達は、火のない所に煙をたたせる事なんか簡単に出来る。その為に必要な材料を俺は提供しちゃったってだけだから」


ニコニコ笑って凛の頭を撫でるけど、凛の頬はどんどん涙で濡れていく。


「心配しなくていいって!俺は大丈夫だから。俺は、凛が心配だよ。叩かれたりしないか?マスコミが凛の家に行かないか?」


「そんなのたいした事じゃないよ。だって、私はモザイクがかけられるんでしょ?だから……。大丈夫」


「大丈夫じゃないだろ?俺の方が、もう慣れてるよ」


凛の手を握りしめたいけれど……。


これ以上、迷惑をかけたくない。


俺は、腕時計を見る。


「凛。もう時間だよ!急ごう」


「本当だね。行こう」


凛は、涙を拭う。


その後、俺達は何も話さないまま二次会の会場についた。


「あのさ……。凛」


「ごめんね」


凛は、小さく呟いて足早に俺の元から去って行く。


「本当は、まだずっと愛してるのに言えないんだよな」


「いきなり何だよ!かねやん」


いつの間にかやってきたかねやんが、俺の肩を叩いてくる。


「マスコミがうろついてるらしいけど、大丈夫だったか?」


かねやんの言葉に俺は、何も言えずに目を反らした。


「写真撮られたんだな」


俺は、何も返す言葉が浮かんでこない。必死で、ここまでやってきた。


それを壊す事を俺はしたのだ。


「まぁーー。仕方ないよな!誰だって、好きな人とは話したいわけだから」


「怒らないのか?」


「怒る?そんな必要ないだろ!拓夢が、凛さんを好きな事。俺達、全員知ってるわけだから。だから、撮られたものは仕方ないだろ?後は、ほら相沢さんとかがどうにかやってくれるって。気にするな」


かねやんは、俺の肩をバンバンと叩いて笑った。


「駄目になったら、また振り出しに戻るだけだろ?他の二人がどう思ってるか知らないけど。俺は、あの頃に戻ってもいいと思ってる!また、仕事しながらバンドだけどさ……。あれは、あれで楽しかったから」


「かねやん……ありがとう」


「拓夢の為じゃないから。追いかけてる時の方が楽しかったって気づいちゃっただけだよ」


「何かそれわかるよ」


「だろ?いろんなしがらみ出来たからな。仕事になるって、そういう事なんだよな」


かねやんは、凛を見つめながら話す。


「拓夢もさ……。有名にならなきゃ、今でも凛さんのそばにいれただろ?」


「それは……」


「本当の話だろ?有名じゃない人で、どれだけ不倫してる人いるんだろうって考えたら。かなりいると思うんだよ。だけど、その人達は拓夢みたいに世間に叩かれないだろ?」


かねやんは、大きなため息をつく。


「有名になるって、世間のお手本みたいになるって事なのかな?ほら、最近も桜木梅乃が叩かれてたろ?不倫の事」


「確かに、叩かれてたな。育児放棄とか色々言われて」


「そうそう。俺は、世間が咎める程、桜木梅乃を悪だとは思わなかった。だって、桜木梅乃は結婚してるのに、旦那さんには頼れなかったって。そんな時に、優しくしてくれたのが桜木梅乃の行きつけのbarの店員だったって……」


「孤独って、家族にも見えないもんなんだよな」


「そうなんだよ。近くにいたってわからないんだよ。だから、桜木梅乃はbarの店員と不倫した。だけど、今回の事で桜木梅乃は仕事もなくして頼れる相手もなくした……。まぁ、マスコミもそれで生活してるから仕方ないんだよな」


「あの人達のお陰で有名になれてる所もあるんだよな」


俺は、かねやんを見つめながら頷いていた。


桜木梅乃のように、俺も世間から咎められるのだろうか?


そうなったら……。俺達はどうなるんだろうか?


考えてもわからない。


発売の日まで、俺は何も出来ないのだろうか?


「今日は、集まってくれてありがとうございます」


会場にまっつんの声が響き。


俺は、考えるのをやめた。



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