どんなに頑張っても…【拓夢】

「そうでしたね」


俺は、コーヒーを飲んで相沢さんを見つめる。


「俺の相手の旦那さんは、皆月龍次郎さんのような優しい人ではなかった。だけど、彼女は俺を選ぶ事はなかったよ」


「不倫だからですか?」


俺の言葉に相沢さんは、首を振った。


「彼女が旦那さんを越える程の愛を俺にはもっていなかったって事かな?それと、絶望を拭い合って関係を続けてきたんだけど…。彼女は、もうその関係だけじゃ絶望を消す事が出来なくなったんだ」


俺と凛と似てる。俺は、相沢さんを泣きながら見つめていた。


「始まりは、一瞬で。その炎は、勢いよく燃えて彼女の心を燃やし尽くした」


そう言って相沢さんは、懐かしそうな顔をしながらコーヒーを飲んだ。


「燃え尽くされた彼女の心に、もう一度火をつける事は俺には二度と出来なかった。彼女の中に広がっていく絶望を止める事も出来なかった」


相沢さんの目から涙が流れ落ちてきた。


「旦那さんは、俺と違って彼女の絶望に寄り添う事が出来たんだ。俺には、それは出来ないかったから…」


「相沢さん、俺…」


相沢さんの痛みが悲しみがわかる。


「星村君と違って、既婚者だって知らなかったんだけどね…。だから、最初から俺は星村君と違って選ばれてなかったんだよ」


相沢さんは、そう言ってポケットからハンカチを出して涙を拭っていた。


「俺だって、選ばれてないです。最初から…」


「そんな事ないよ!俺は、凛さんを見て思うよ。旦那さんが、皆月龍次郎さんじゃなかったら星村君が選ばれてたんじゃないかな…」


その言葉に、俺は涙を拭ってコーヒーを飲んだ。


「やっぱり、皆月龍次郎あのひとには敵わないですね」


俺の言葉に相沢さんは、「残念ながら無理だね」と言った。


「わかってるけど、悲しいもんですね」


俺の言葉に相沢さんは、うんうんと首を縦に振っていた。


「もっと嫌な奴で、最低な奴で、怒りに任せちゃう奴で、嫉妬深くて…。そんな奴なら、凛を奪ったのに…」


俺は、泣きながらそう言った。


「そんな人だったら、よかったね」


相沢さんは、そう言って優しい笑顔で俺を見つめていた。


「どんなに頑張っても、皆月龍次郎あのひとには敵わないのはわかってますから」


「そうだね。皆月龍次郎さんの愛や優しさには、勝てないね」


相沢さんの言葉に「やっぱりそうですよね」と俺は小さな声で呟いていた。


「いつか、星村君にも素敵な人が現れるよって人並みの回答しか出来ないよ」


相沢さんは、そう言って頭を掻いてコーヒーを飲んだ。


「いつか、現れるんですかね…?」


「現れるよ!凛さんを愛してる星村君を丸ごと愛してくれる人が絶対現れるから…」


「どうでしょうか?」


俺は、相沢さんにそう言ってからぬるいコーヒーをいっきに飲み干した。

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