私……【凛】

「龍ちゃん」


謝ろうとした私の事を龍ちゃんは止めた。


「龍ちゃん……?」


「いいんだよ。帰ってきてくれただけで、充分だから」


「拓夢との事、聞かないの?私は、龍ちゃんを…」


裏切ってるんだよ。こんなに優しい龍ちゃんを…。


「何も知らないでいい。その方が、俺達はうまくいくよ」


「龍ちゃん」


「俺は、この先も凛と生きていきたいだけなんだよ。だから、聞かなくていい」


龍ちゃんは、私の頬に手を当ててくる。涙を拭ってくれるのがわかる。


「もう二度と龍ちゃんを裏切らないって約束するから」


私は、泣きながら龍ちゃんを見つめていた。


「そんな約束しなくていい。俺は、凛と出会った日から…。凛に愛を知ってもらいたいって思っただけだから…。俺のわがままにずっと付き合ってくれてありがとう。この先も、付き合って欲しい」


「龍ちゃんが何でそんな事言うの?お願いしなきゃいけないのは、私の方だよ」


龍ちゃんは、私の手を掴んでチュッと手の甲にキスをしてきた。


「俺は、凛の絶望を拭えなかった。あの日も、今回も…。でも、星村さんは拭えた。だから、本当は星村さんといるべきなんだよな」


私は、龍ちゃんの言葉に首を左右に振った。


「でも、もう星村さんに抱かれるだけじゃ拭えなくなったんだろ?」


私は、その言葉に龍ちゃんを見つめる。涙が流れて止まらない。


「絶望を拭う為に抱かれるだけじゃ、もう凛は救われなくなったんだよな…。だから、二人で新しい何かを見つけてきたんだよな」


龍ちゃんは、そう言って優しく笑いかけてくる。


「もっと怒っていいんだよ!俺は、凛の夫だって…。あんな奴に取られたくないって…。凛は、俺を裏切ったって…。最低な人間だって」


龍ちゃんは、私の言葉に私を強く抱き締めた。


「もっと…」


怒られなきゃ…。私、龍ちゃんの愛がなくなるまで欲しがっちゃうよ。拓夢の事も許されたら、私…。拓夢を愛したままになっちゃうよ。


「それでいいんだよ。凛」


何かを感じとったように龍ちゃんはそう言った。


「龍ちゃん、怒っていいんだよ」


「怒らないよ。だって、俺は世界で一番凛を愛してるんだ。悪いけど、俺以上に凛を愛してる人はいないよ!凛の両親よりも、俺の方が凛を愛してる。この自信が失くならない限り、俺は凛を愛し続けるし…。凛が何をしてたって許せるんだ」


私は、龍ちゃんの言葉に龍ちゃんを強く抱き締めていた。

龍ちゃんの愛は、私の両親より深くて暖かいのを私は知ってる。


「龍ちゃん、ありがとう。愛してくれて」


「俺の方こそ選んでくれてありがとう」 


私は、自分勝手だと思う。それでも、龍ちゃんの優しさと愛に包まれていたい。


「龍ちゃんが一番私を愛してくれてるのわかってるから…」


「凛」


時には、期待する時があっても…。


龍ちゃんは、すぐにやめて愛してくれる。


見返りをほとんど求めてはこない。


皆月龍次郎は、ただ私を愛してくれているだけなのをわかっている。


私は、龍ちゃんがくれる愛がわからなくなったに過ぎないのだと思った。


ぬるま湯に使ってると長湯をしてしまう感覚に似ている。

私は、あの日、温度の違う愛に触れたかったのだと思う。


「わかってるから、龍ちゃん」


本当は、わかってた。龍ちゃんが、私をただ愛してくれてた事を…。気づかなかっただけで、いつでも傍にあった。だから、私はこの愛を失いたくなかったんだと思う。


「凛、愛してるよ」


龍ちゃんは、そう言って私をさらに強く抱き締める。



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