後で行くから【拓夢】

「星村君、凛さんを送ってから家に行くから、もう帰りなさい」


俺は、相沢さんにそう言われる。


「わかりました」


俺は、何も言えずにそう言った。


「拓夢、ごめんね。私のせいで…」


「何で、凛が謝るんだよ!凛は、何も悪くないよ」


「私がわがまま言わなかったら…」


「そんなの関係ない」


俺は、気づくと凛の手を握りしめていた。


「どうぞ!お別れして下さい」


相沢さんは、そう言って俺達から背を向けた。


「凛、ありがとう。楽しかったよ!」


「私も楽しかった」


「忘れないから、この日々を…」


「私も忘れない」


俺は、凛を引き寄せてギュっと抱き締めた。


「凛、いつでも連絡して…」


「うん」


「これから先は、幸せだから…。絶対」


「うん」


「ずっと、ずっと、友達でいよう」


「うん」


俺は、凛から離れた。


右手の小指を凛に向けた。


「約束」


「約束」


そう言って、俺達は指切りをした。


「相沢さん、凛をよろしくお願いします」


俺の言葉に、相沢さんは振り返った。


「勿論ですよ!きちんと送ります。では、また後で」


「はい」


俺は、相沢さんと凛がいなくなるのを見つめていた。小さくなって、二人はいなくなった。


「はぁー」


ため息をついて、来た道を引き返す。

さっき写真を撮られた時にハッキリと気づいた。俺は、もう一般人じゃない。だからこそ、凛を傷つけてしまうのがわかった。

皆月龍次郎さんが、最後にくれた時間を俺は凛と有意義に使う事が出来た。それでも、まだ一緒にいたいと思う気持ちを拭いきれないのは、凛を愛しているからだと思う。


ブー、ブー


コートのポケットにあるスマホを手に取った。


「もしもし」


『あっ!今、大丈夫か?拓夢』


「あっ、うん」


電話の相手は、明らかに暗い声のまっつんだった。


『理沙との結婚。暫く、無理そうだわ』


「何で?」


『あいつが、週刊誌に売ったらしい』


「まっつんと理沙ちゃんを?」


『いや、それだけじゃないって話』


「SNOWROSEがヤバいのか…」


『どうやら、そんな感じだな』


まっつんは、そう言いながら泣いてる。


「お金が欲しかったのか?」


『そうだろうな』


「そっか」


俺は、さっき何故写真を撮られたのかが理解出来た。


『拓夢。あいつがいなきゃ俺は産まれてない。だから、やっぱり俺…。そこだけは、あいつに感謝してるんだ』


「うん」


『だから、憎み切れないんだよな。最後が甘いって言うかさ』


「俺は、いいと思うよ!憎んでるまっつんより、感謝が出来るまっつんの方が好きだよ」


『ありがとう』


まっつんは、そう言って泣いていた。


「心配すんなよ!大丈夫だって」


『拓夢、これが落ち着いたら。俺、理沙とちゃんと結婚するから…』


「うん」


『拓夢と凛さんに迷惑かかるかも知れない。大丈夫か?』


「気にすんなって!俺と凛は、ちゃんと終わったから」


『終わった…のか?』


「うん。終わらした」


俺の言葉にまっつんは、『そうか』とだけ言った。


『また、明日な』


「うん、じゃあな」


まっつんと電話を終える頃には、家の前についていた。俺は、鍵を開けて玄関に入った。


扉が閉じた瞬間、俺は膝から崩れ落ちた。


「本当に終わったんだな」


実感がいっきに押し寄せてきて、俺は暫く玄関から動けずにいた。


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