現れた人【拓夢】

「はい」


「ごめん。ちょっと」


その声に、俺は玄関を開けた。


ガチャ…。


「拓夢ー」


現れたのは、しゅんだった。


「どうした?」


しゅんは、何故か泣いている。


「何かあったか?」


「ちょっと話せる?」


「いいよ」


俺は、しゅんを家にあげる。


「兄貴がさー、いや、姉貴がさー」


しゅんは、そう言ってリビングに歩いて行く。俺は、鍵を閉めてから、しゅんについていく。


「どうした?」


「ジャケット写真見せたんだよ!SNOWROSEの…」


そう言って、しゅんは悲しそうに目を伏せる。


「うん」


「そしたら、SNOWROSEは、変態集団とか言い出してきてさー」


そう言いながら、しゅんは手を差し出してくる。


「珈琲いれようか?」


「いらないよ!キツイ酒が飲みたい」


「あー、そっちな」


俺は、キッチンからビールを取り出してきて、しゅんに渡した。


「悪い、ビールしかないわ」


「いや、いいよ!ありがとう」


そう言って、しゅんはビールを開けてる。


「乾杯」


「乾杯」


しゅんは、ゴクリとビールを飲んで話し出す。


「凛さんと拓夢の飴の写真とか芸術だろ?それを見せたら、姉貴が変態バンドだとかってギャーギャー言ってきてさ」


「そっか」


俺は、ビールを飲んだ。確かに、しゅんのお兄さん、嫌、お姉さんが言う話しも一理あるよな。


「そっかじゃないから

、芸術だから!作品だろ?あれを厭らしい目で見てる姉貴に問題があるわけだろ?」


「でも、俺達ってよりも受けての問題が多いよ!」


しゅんは、俺に羽村典人はむらのりとと言う作家の本を差し出してきた。


「誰?」


俺の言葉にしゅんは、驚いた顔をしながら「知らないの?」と言った。


「知らない」


しゅんは、「はぁー」と小さく溜め息をついてから…。


「彼の作品はね、ちゃんとエロスが描かれてる」と言ってきた。


「エロス?」


しゅんは、俺の言葉にうんうんと頷いてから、話し出す。


「俺ね、そもそもエロが扱われてない作品は、基本見ないわけ」


「はぁ…」


「何だよ、その顔」


「いや」


俺の言葉にしゅんは、眉を潜めて溜め息を吐き出した。


「誰も、何十ページも性描写を描けなんていってないだろ!ただ、エロはあって欲しいんだ。やってました、チャンチャン何て話しは大嫌いなんだよ」


俺は、その言葉に羽村典人の本を開いた。


「稲光が光ったように私の身体に電気が走った。彼との性行為は今まで私がしたどれよりも素晴らしかった」


しゅんは、俺の開いたページを読んでいた。


「ちゃんと性描写は、描いてるんだな」


「そうそう。でも、ちゃんと話の流れにはそってるだろ?」


「まあ、確かにな」


俺は、その小説を見ながら頷いていた。


「エロって必要だろ?」


「俺は、あってもいいかな」


俺の言葉にしゅんは、「だろー」って大きな声を出した。


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