相沢さんと話す

「車に乗っててくれる?」


「はい」


そう言われて、俺は相沢さんに助手席を開けられて乗り込んだ。相沢さんは、料金を清算していた。何の話だろうか?明日じゃ駄目だったのだろうか?


暫くして、相沢さんが戻ってきて車に乗り込んだ。


「とりあえず、走りながらになるけど、聞いてくれるかな?」


「はい」


そう言って、相沢さんは車を発進した。


「実は、今朝!事務所のスタッフに言われたんだけど」


「はい」


「星村君が不倫してる写真が流出してるって言われたんだ」


俺は、その言葉に固まっていた。


「どこか、話せる場所に行ってから詳しくは話すよ」


「はい」


消え入りそうな小さな声を出していた。


「星村君に一つだけいい事を教えてあげるよ」


相沢さんは、そう言って前だけを見つめながら話す。


「何でしょうか?」


「星村君が不倫してるかは、まだ聞いてないから知らないけど…。もしも、不倫してるとして聞いてくれるかな?」


俺は、相沢さんの言葉に「はい」と言った。


「星村君の想いは絶対に叶わないよ!」


相沢さんは、力強くそう言った後で、赤信号で停まって俺を見つめる。


「夢を応援する人間が、絶対とか叶わないなんて使っちゃ駄目だよね」


そう言って、相沢さんは笑った。俺は、その言葉に無言で首を横に振った。


「でもさ、叶わないって知ってる方が幸せな事って、世の中に沢山あるんだよ。まだ、星村君にはわからないだろうけどね」


相沢さんは、そう言って悲しそうに笑ってる。


「相沢さんは、この仕事がしたかったわけじゃなかったんですか?」


俺の言葉に、相沢さんは「そうだよ」って小さく呟いた。


「実はね、こう見えて俺は表にいきたかったんだ」


「芸能人って事ですか?」


「そうそう」


相沢さんは、そう言いながら苦笑いをしている。


「諦めたんですか?」


俺の言葉に、相沢さんは「そうするしかなかった」と小さな声で言った。


「叶わないって知ってる方が幸せな事があるって事ですか?」 


俺の言葉に相沢さんは、「そうだよ」って言ってため息を一つ吐いた。


「追いかけ続ければ叶うとか諦めなければ叶うってそう思うだろ?」


「はい」


「それはね、間違いだから!」


相沢さんは、そう言いながら眉間に皺を寄せてる。


「努力も才能も運も何もかも意味がない事が、世の中にあるって知ってたら、生きてくの楽だよ!」


相沢さんは、そう言ってまたため息をついた。


「これを言ったら、大抵の若い奴は怒るんだよ!仮にも俺達の夢を応援する立場のあなたが言いますかってね」


俺は、相沢さんの言葉の意味がわかる気がした。凛と出会って、凛に愛される為に努力をした、運命だって俺に微笑んで味方してくれた。才能はよくはわからないけれど…。だけど、俺だけの何かではどうにも出来なかった。


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