もう二度と触れられない人

撮影は、無事に終わって着替えた俺達が、さっきの場所に戻ると…。


「いやー、お疲れさまでした」


相沢さんは、戻ってきていたようで、ニコニコと笑って俺達に近づいてくる。


「とてもいいPVが撮れてたよ!凄い、よかった」


『ありがとうございます』


俺達四人は、相沢さんに頭を下げる。


「二週間後に、歌を収録するけど大丈夫かな?星村君と松田君だよね?歌ってるのは」


「はい」


「じゃあ、二人には、話があるから残ってくれるかな?」


「わかりました」


「はい」


俺とまっつんは、相沢さんに頷いた。


「金田君と瀬戸君は、お疲れさまでした。後、理沙さんと凛さんもありがとうございました」


「はい」


「お疲れさまでした」


「ありがとうございました」


そう言って、かねやんとしゅんと理沙ちゃんと凛は、相沢さんに頭を下げていた。


「あの、理沙を駅まで送ってからでもいいですか?」


「いいよ、いいよ!車で、待ってるから」


「俺も凛さんを…」


「うん、送ってきて」


そう言って、相沢さんはニコニコ笑って手を振ってくれる。


俺達四人は、歩きだす。気を遣ったのか、まっつんと理沙ちゃんは、離れてくれた。


「今日は、疲れただろう?」


「そうだね!でも、凄く楽しかった」


「それなら、よかった」


「何か、馬鹿馬鹿しくなっちゃったー」


凛は、そう言って軽く伸びをする。


「馬鹿馬鹿しい?」


「そう!子供に縛られてるって、こんな小さな事なんだって思ったの」


そう言って、凛は親指と人差し指で少しを表現して笑っていた。


「凛の気持ちが楽になったなら、よかったよ」


「ありがとう!こんな世界を教えてくれて」


凛は、ニコニコ嬉しそうに笑う。手をブンブン振って、今にもスキップしそうだ。

俺は、そんな凛の手を握る事も抱き締める事も、もう二度と叶わないんだ。


行きたくなかったのに、駅についてしまった。もっと、凛と話したかった。もっと、凛と過ごしたかった。泣かないように、涙を堪える。


「じゃあね、優太」


「気をつけて」


「拓夢、またね」


「うん、気をつけて」


俺とまっつんは、凛と理沙ちゃんが見えなくなるまで手を振っていた。二人は、こちらを振り返る事なく改札を抜けて行った。


「戻ろうか、拓夢」


「うん」


押さえていた涙がボロボロと溢(こぼ)れ落ちてくる。


「よく、頑張ったな」


まっつんは、俺の肩を叩いた。


「ごめん。すぐ止めるから。止まるから」


「いいって」


涙の止め方を忘れてしまったように俺は泣き続ける。


「愛してたんだろ?だったら、仕方ないだろ?」


まっつんの言葉に俺は、頷いていた。無言で、ただただ涙が流れてくる。


それを拭いながら、歩く事しか俺は、出来なかった。


「ご、ごめん」


振り絞って出た言葉は、それだけだった。


「大丈夫だって」


まっつんは、俺の肩をポンポンと叩いて歩いて行ってくれる。隣にまっつんがいなかったら、俺、泣き崩れていた。


嫌……。


「危ない、赤だし」


「ごめん」


俺、死んでたかもな…


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