優しさの檻…

「だけどね。優しいだけじゃ、救われないの…。私は、もう優しさの檻にいたくなかった」


「凄い人なんだな。旦那さん」


「そんな事ないよ!だって、龍ちゃん。時々、そんな事言っちゃ駄目って事を平気で言ってくるから」


「そうなの?」


「多分ね、龍ちゃんは、人との距離感がうまくないの。それも全部優しいからだと思う」


凛は、そう言って柔らかく笑ってる。龍ちゃんの話をする時の凛の顔は、本当に穏やかで…。焼き餅や嫉妬をするのが情けないぐらいだった。


「だから、言っちゃいけない事も平気で言っちゃうの。私に…」


「それで、凛は傷つくんだろ?」


「そう。傷つくの…。でも、龍ちゃんが優しいから、すぐ忘れちゃうの」


「凛」


「だけど、もう私達は無理かもしれないね」


「そんな事ないから」


俺の言葉に、凛は俺の手を握りしめて腰に引き寄せる。


「無理でもいいの」


「どうして?」


「皆月龍次郎を解放してあげなきゃ!」


そう言った瞬間、凛の目から大粒の涙が流れ落ちる。


「何から、解放するんだよ」


「赤ちゃんが出来ない。地獄の暗闇から」


そう言って、凛は俺に抱きついてくる。


「凛…」


「出口のない暗闇をさ迷い続けるのは、私一人でいい。龍ちゃんにも拓夢にも…。そんな想いはして欲しくないの。こんな気持ちを持つのは、私だけでいいから…」


俺の胸に、凛の涙が当たるのを感じる。


「俺と過ごした時間で、凛が決めた答えなのか?」


「うん」


凛の声が、泣いてる。


「もう、これ以上。龍ちゃんを苦しめたくない。若くて愛してくれる人がいて、龍ちゃんが愛せる人なら…。生きていって欲しいと思った。私と歩くこの道は、この先も苦しくて辛くて悲しいだけの道だから…」


凛は、そう言って泣いた。


「拓夢、何でかな…。何で、私。こんなに悲しいのかな?愛って言葉で縛り付けてたのは、私だったんだね」


俺は、その言葉に凛を強く抱き締める。


「今日は、龍ちゃんを忘れて…。俺の事だけ、考えてよ。俺は、まだ若いから、赤ちゃんなんかいらないし、結婚だってしたくない。だから、俺だけを見てよ。凛」


無理な願いなのは、わかっていながら口に出す。


凛は、涙でグショグショの顔をあげる。


「真っ白になりたい」


「もう一つあったよ」


俺は、避妊具それを掴んで凛に見せる。


「普通二つぐらいじゃない?」


「だけど、何か三つあった。凛の体、しんどくない?」


「しんどくてもいい。真っ白になりたい。龍ちゃんの事を考えないようにして。今日だけは、私のなかを拓夢だけにして」


凛は、俺の首に腕を絡ませてくる。俺と凛は、さっきよりもっと獣みたいになる。


お互いのなかにある感情きもちを貪り食うように、お互いを支配するように、激しく抱き合った。


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