心が磨り減るのを忘れていた

私は、理沙ちゃんの手を強く握りしめる。


「デビューしたら信じられない?」


私の言葉に理沙ちゃんは、ゆっくり頷いた。涙がボロボロこぼれ落ちるのが見える。


「結婚してたら、違った?」


「わからない」


「まだ、何も始まってないじゃない」


「でも、今までよりファンの人数は増えるんだよ。そんなのわかってるから」


理沙ちゃんは、そう言いながら泣いてる。


「理沙ちゃんとまっつんさんが過ごした歳月は、誰にも飛び越えられないよ」


だから、大丈夫だとは言えなかった。根拠のない自信に苦しめられる事を私は知ってるから…。


「凛ちゃんは、大丈夫だよって言わないんだね」


見透かされていた。りさちゃんは、私から手を離した。


「ごめんね。言えない」


「いいの、いいの。その方が嬉しいから…。だって、大丈夫なんて言われて、それ信じて、理沙、優太に捨てられちゃったらどうする?生きていけないよ」


「そうだね」


理沙ちゃんの言葉の意味は、わかるよ。私、そうだったから…。赤ちゃんが治療したら大丈夫、出来るって言われて、諦めた頃にとかってのもあるからって言われて…。結局、私は妊娠する事はなかった。それで、今、私は不倫してる。誰かのせいになんてしたい訳じゃない。でも、安易に大丈夫なんて言われたくなかった。


「凛ちゃん、眉間に皺が寄ってる」


「あっ、ごめん、ごめん」


私は、そう言って笑った。


「凛ちゃんは、大丈夫って言われすぎちゃった?」


理沙ちゃんは、珈琲を飲みながら尋ねてくる。


「そうだね。言われすぎちゃった」


「大丈夫じゃなかったんだよね」


「違ったね」


理沙ちゃんは、チーズケーキを口に運びながら何かを考えていた。


「凛ちゃん、理沙ね」


「うん」


「大丈夫とか、絶対って言っちゃったよね」


「そんなの気にしないでよ。私だって、今回言わなかっただけだよ」


「安心するんだよね。そう言われたら」


「そうだね」


確証なんてなくても安心するから、つい使ってしまう。


「でも、大丈夫じゃなかった時…。絶対じゃなかった時…。絶望感が凄いよね」


「うん」


私は、理沙ちゃんの言葉に大きく頷いていた。


「その絶望って自分じゃ拭えないんだよね。きっと…」


「そうだね」


私もチーズケーキを食べる。


「でも、自分しか乗り越えられないんだよ」


珈琲を飲んでから、私は理沙ちゃんに言った。


「それは、どうして?」


「結局、自分で傷を癒すしかないんだって気づいちゃった。でも、癒す為の材料を私は一人じゃ産み出せなかった。龍ちゃんにも、それは出来なかった」


「たくむんなら、出来た?」


「拓夢は、私にそれを貸してくれたって感じかな…」


私は、そう言って理沙ちゃんに笑いかける。自分でも、自分が言いたい事がうまく纏まっていなかった。

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