守れないなら…

「星村さん、ルールを守れないなら不倫はしちゃダメよ」


「はい」


「まー、あんたは違ったわよね!凛とは、違う。壊さないのがわかる」


「そうですか?」


「元サレ妻の勘ってやつよ」


そう言って、平田さんはアハハと笑ってる。


「人の家庭を壊す事は、絶対に駄目よ!子供がいようがいまいが…。夫婦にしかわからない事を第三者がとやかく言うべきじゃない。残念だけど、星村さんは、あの夫婦の間に割って入るなんて出来ないのよ」


「わかってます」


俺の言葉に平田さんの母親は、ビールを飲む。


「わかってんなら、あんたが彼女とやりたい事!今のうちに、全部叶えとかないとね」


そう言って、煙草に火を着けた。不倫なんて、ずっと続けられない事ぐらいわかってる。凛の旦那さんも、平田さんの母親と同じように俺は傷つけるんだ。俺は、不倫をされた側の平田さんの母親の言葉を重く受け止めていた。


「あの人に子供がいないから、不倫したの?」


「違います」


「じゃあ、何でしたの?」


平田さんの母親は、煙草を灰皿に押し当てて消している。


「切望した願いが、絶望に変わった日に俺は凛に出会いました。そして、凛も同じだった」


「だから、そうなったんだね!導かれるように、恋に落ちたわけだ」


「はい」


「運命とか奇跡とか、そんな素敵な言葉を並べたって不倫は不倫だからね」


そう言って、平田さんの母親はゴクゴクとビールを飲む。反論なんて出来やしない。平田さんの母親の言葉は、正論だ。


「ぐうの音も出ないでしょ?」


「そうですね」


「ハハハ、素直だねー。でもね、相手がいる時点で運命じゃないから!それは、勘違いだから」


「そうですよね」


俺は、目を伏せてそう呟いた。


「でも、好きになったなら仕方ないんじゃない!ただ、凛には無理!あの子は、不倫には向いてない」


確かに、そうだ!俺に、宣戦布告するぐらいだ。凛の家庭を壊しかねない。


「あの子が、真剣すぎるから怖いの!だから、母親としてあの子を止めてるのよ!あの子は、怒るけどね…。一線越えたら、歯止めが効かなくなるのわかってるから止めたの…」


「まだ、二人は一線を越えてないってわかるんですね?」


「わかるよ!キス以上先には進んでない。ただ、あの子は先に進みたがってるのがわかる。それだけ、凛にとって彼女は魅力的なんだと思う。だけど、私は母親としてそれを容認するわけにはいかない。わかるでしょ?」


「はい」


「だから、今日だけ!あの子が彼女と好きなようにするには…。もう二度と凛と彼女を二人にはさせない。星村さんから、彼女に言ってくれる」


「わかりました」



俺の言葉に、平田さんの母親は納得したように頷いてビールを飲み干した。平田さんの母親は、きっとうまく言葉に出来ないだけで平田さんを愛しているのがわかる。

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