苦手なケーキの話…

ホテルに戻ってきて、フロントから鍵をもらって部屋に入った。凛君は、机の上にコンビニ袋をドサリと置いた。


「ケーキ食べよう」


「うん」


そう言って、袋をおろす。紙皿を買ってきたから、凛君はそれにケーキをうつした。


「はい、ミルクティー」


「ありがとう」


紙コップに、ミルクティーを注いで渡してくれる。


「食べれるの?」


私は、凛君に聞いた。凛君は、私の隣に座ってくる。


「凛さんが、悲しくて辛い話をするのに、僕だけ無傷ってわけにはいかないでしょ?」


「どういう意味?」


「僕も、傷を見せなきゃって話」


そう言って、凛君は私の手を握りしめる。その手は、震えてる。


「無理してない?」


「凛さんの為なら、無理したいんだ!聞いてくれる?」


「うん」


凛君は、チーズケーキを食べる手を止めて私の顔を見つめる。


「僕の誕生日ケーキはね!毎年、チーズケーキだった」


「どうして?」


「父さんが、それしか食べられなくて」


「そうなんだね」


「うん!それでね」


凛君の目からポトリと涙が落ちる。私は、それを見つめていた。


「うん」


「10歳の誕生日に、母さんはチーズケーキ買ってきたんだ」


「うん」


「父さんは、もういないのに…」


「うん」


「ハッピーバースデーを歌ってくれて、ローソク立ててくれて」


「うん」


「浴びるほど、お酒を飲んでたからかな?」


「うん」


「あんたなんか死んじゃえって言ったんだ」


「えっ?」


私は、その言葉に固まってしまった。


「ニコニコ笑って、チーズケーキ食べようとした僕がきっと気に入らなかったんだと思う」


凛君の目から、涙がボロボロ流れ落ちてきて…。手や体が、ガタガタと震えてる。


「もう、いいよ!話さなくて」


「いつだって言うんだ!気に入らない事があると、あんたなんか死んじゃえって」


「もう、いいよ」


凛君は、首を左右に振って話す。


「それでも、僕は母さんに笑ってて欲しくて…。幸せでいて欲しくて…。それで、何とかしようって頑張るんだ!そしたらね、こう言うんだ。愛されたくて必死だねー、気持ち悪いって」


気持ち悪い?私は、その言葉に何も返せない。


「それで、酔っ払ってむしゃくしゃしたら、またこう言うんだ。あんたなんか死ねばいいんだ!さっさと死んでくれない?って…。僕は、部屋に戻って生きててごめんなさいって泣くんだ」


その涙に、その言葉に、どうしてあげる事も出来なくて私は凛君を抱き締めていた。


「凛さん、ごめんね!重いでしょ?」


「ううん」


「だから、僕ね。子供が大嫌いなんだよ」


「そうなの?」


「うん。愛されたくて必死で媚び売ってるみたいに見えて大嫌いなんだ」


その言葉で、私は凛君がどれだけの傷を一人で抱えて今まで生きてきたのかがわかった。お母さんに愛されたくて必死で向けた凛君の優しさや愛情は、ゴミのように扱われ捨てられてきたのだ。

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