凛君の想い出
「行こう」
そう行って、私は連れて行かれる。どう見ても、ここはホテル!
「いらっしゃいませ」
「予約してないんですか、二名です」
「かしこまりました」
凛君は、フロントに何か話していた。鍵を渡されて、凛君は私を連れてくる。連れてきた部屋は、ベッドが2つ並んでる。
「ここに、父さんと最後に泊まったんだ」
「旅行って事?」
「まあ、そんな感じ」
そう言って、凛君は笑った。テーブルと一人掛けソファーが置かれてる。
「どうして、ここに?」
「凛さんが、何か辛いのかな?って思ったから!ここ、見た目ホテルだけどちゃんと温泉もあるんだよ!それと、晩ご飯が美味しいんだ!僕もあの日元気になったから」
「凛君も落ち込んでたの?」
「うん!大好きなお婆ちゃんが亡くなって、落ち込んでたんだ。そんな僕をみかねて父さんは最後に連れてきてくれた。ここから、帰る時にはすっかり元気になってた」
「凄いね!」
凛君は、私の言葉に抱き締めてくる。
「凛さん、何があったか僕は知りたい」
「何もないよ」
「嘘だよ!僕には、わかる。凛さんに何かあった事ぐらい」
「どうして?」
「凛さんの事を、ずっとずっと見てたから!わかるんだ。今日は、何かあったって」
そう言うと凛君は、さらにきつく抱き締めてくる。
「僕で役に立つかわかんないけど、凛さんの役に立ちたい」
その言葉に、私は泣いていた。1日ぐらい、凛君と過ごしたって罰は当たらない気がしてきた。
「凛君、私…」
ちゃんと言わなきゃ!こんなに、心配かけてるんだから…。
「ごめんね、素面で話せない」
「お酒飲みたいって事?」
「飲みたいってより、飲まないと言えないぐらいキツイから…」
凛君は、私から離れて顔を覗き込んでくる。
「眠る前に教えてよ!凛さんが、お酒を飲んでたらでいいから」
その優しさに胸が押し潰される。
「昼御飯、何か買ってくるよ!一緒に行く?」
「うん、いいよ」
「凛さん」
「何?」
「今日だけ、僕の彼女になってよ」
そう言って、凛君は私の手を繋いでくる。
「わかった、今日だけ」
「うん」
指を絡ませるように手を繋がれる。私の悲しみを和らげてくれようと頑張っている凛君の気持ちを無下には出来なかった。部屋から出て、フロントに鍵を預けてホテルを後にする。並んで歩くけど、どう考えても私達は親子だと思う。それでも、いいって言う。凛君が不思議だった。
「凛さん、何食べる?」
「何があるのかな?」
「こっから、先歩いて行くとご飯屋さんあるみたいだよ」
そう言いながら、凛君はスマホを見ている。
「凛君が決めて」
「じゃあ、うどん食べようか!僕が、おごりやすいから」
そう言って、凛君は笑ってくれる。この時、私は自分のスマホが鳴っているのを知らなかった。サイレントにしていたままだったから…。
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