傘…

「取りに行くって今から?」


時計を見ると、朝の4時半を回っていた。


「さすがに、朝早すぎるかなー。でも、床に置いてきたままで」


「大事な傘?」


「夫が、買ってくれたので」


「それは、めちゃくちゃ大事なやつじゃん」


「はい」


「拓夢の家に忘れたの?」


「いえ、外の玄関の前に忘れちゃったんです」


まっつんさんは、スマホを見つめる。


「ちょっと待って」


そう言って、立ち上がって誰かに連絡をして戻ってきた。


「俺、明日休みで酒飲んじゃてるから、送れないんだよ」


「大丈夫です」


「で、しゅんが今から迎えにくるから」


「今からですか?」


「うん!平田君は、俺達が見とくから心配しないでよ!凛さんは、そのまま帰ったらいいから」


「ありがとうございます」


「いいよ!それに、敬語じゃなくていいから」


「ありがとう」


「うん」


私は、しゅんさんが来るまでにトイレを借りたりした。凛君も理沙ちゃんも私に付き合ってて疲れたみたいで起きなかった。


ブー、ブー


「もしもし。うん!了解」


まっつんさんは、電話を切って私を見つめる。


「しゅん、下についたって!送ろうか?」


「大丈夫」


「わかった!傘の話しはしてるから」


「ありがとう」


「気をつけて」


「はい!あっ、凛君。よろしくね」


「了解」


私は、まっつんさんに頭を下げてから家を出た。

エレベーターに乗って、下に降りるとしゅんさんが、待っていた。


「おはようございます」


「堅苦しいね!普通でいいって」


「おはよう」


「おはよう」


しゅんさんは、ニコニコ笑ってくれる。そして、助手席を開いてくれる。


「行こうか」


「はい」


「拓夢の家に傘忘れたんだって?」


「はい」


「凄い、大事な傘なんでしょ?」


「はい」


「じゃあ、サッと取ってさっさと帰ろう」


「はい」


私は、力強く頷いていた。しゅんさんは、運転が上手くて私はウトウトしていた。


「ついたよ」


そう言われて、寝てしまったのに気づいて恥ずかしくなった。


「ごめんなさい」


「いびきとか白目とかなってなかったから、大丈夫!」


しゅんさんは、そう言ってグーってしてくれる。

私は、ホッとした顔をする。


「安心した?」


「はい」


「行こうか」


「待っててくれても」


「いや、ついてくよ!」


その言葉にまっつんさんが、伝えてくれたんだと思った。わざわざ、私の為に近くのコインパーキングに車を停めてくれていた。

しゅんさんと二人で並んで歩く。朝日が綺麗!

エレベーターに乗って、拓夢の家の前にやってきた。


「傘って、どこ?」


「ないです」


忘れて行った傘は、なかった。


「誰かが拾ったって、拓夢だよな!絶対」


そう言って、しゅんさんは顎に手を当ててる。


「わかった!俺が鳴らすから!そっちに隠れてなよ」


そう言って、エレベーターの方を指差した。

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