真夜中の訪問者

ピンポーン


ガチャ…


「はい」


「久しぶり」


「どうぞ」


深夜2時、明日花ちゃんが俺の家にやってきた。

明日花ちゃんは、あの頃と変わっていなかった。

俺は、キッチンに連れてきた。明るいキッチンでは、明日花ちゃんの頬が赤くなってるのに気づいた。


「アイスノンとるよ」


「あ、ありがとう」


俺は、冷凍庫からアイスノンを取って明日花ちゃんに手渡した。


「本当に、雅俊が?」


明日花ちゃんは、頷いた。


「信じられない。ごめん。明日花ちゃんが嘘ついてるとかじゃなくて」


「わかってる」


明日花ちゃんは、そう言って薄く笑った。


「ごめん、でも、本当なら俺!雅俊怒るよ」


「いいの」


明日花ちゃんは、そう言って首を横に振った。


「どうして?」


「悪いのは、世の中でしょ?」


「そんな事…」


明日花ちゃんは、俺を見つめて話し出す。


「私と雅俊。三ヶ月前に婚約したの」


「うん」


「同棲は、半年前からしてたんだけどね」


「うん」


「私の父が、けじめをつけさせろって怒っちゃって」


「うん」


「それで、3ヶ月前に両親に会ったりして婚約したんだけど」


そう言うと明日花ちゃんは、悲しい顔をした。


「こんな世の中じゃない」


「うん」


「雅俊、職場辞めさせられちゃったの」


「えっ?」


「一ヶ月前に突然解雇されちゃってね」


「そんな…」


「今までと同じ収入稼ぐ為に、朝から真夜中まで働いててね」


「そうだったんだ」


「うん。それで、さっきちょっとした喧嘩になっちゃって」


「で、殴ったのか?」


「でも、グーじゃないよ!平手だから」


「いや、どっちも駄目だよ」


俺は、明日花ちゃんを見つめて言った。


「でも、雅俊が悪いわけじゃないから!世の中が悪いの!それに、私も働いてたんだけど…。バイトだから、週減らされちゃって…」


「明日花ちゃん、殴られたのは明日花ちゃんのせいじゃないし。世の中のせいでもない。確かに、最近は生きづらい事もあるよ!だけど、それと殴っていいはセットじゃないから」


「拓夢君」


明日花ちゃんの目から涙が一筋流れ落ちてくる。


「明日花ちゃん」


「どうしたらいいかわからなくて、拓夢君に連絡したの」


俺は、明日花ちゃんの隣に座った。


「よく、覚えてたね!俺の番号」


「あの時、拓夢君が大好きだったから何度も何度もボタン押したの!だから、指が覚えてた。番号が変わってたら、諦めようって思ったの」


明日花ちゃんが絶望した気持ちと俺が絶望した気持ち…。悲しみと悲しみ、痛みと痛み…。


触れ合う為の理由には、充分だよな!


「拓夢君」


その声に、あの日が甦ってくる。


「拓夢君」




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