距離…

私は、駅について傘を閉じる。鞄から、フェイスタオルを取り出した。私は、傘についた水滴をそのタオルで拭うと小さなビニール袋にしまって鞄にいれる。これは私が、中学生の頃に出会った人がやっいた事だった。


その人は、白いワンピースに胸まで真っ黒なストレートヘアをなびかせていた。お姉さんは、傘をゆっくり閉じると鞄からフェイスタオルを取り出した。傘の水滴を拭っていた。当時、私は閉じた傘をバサバサと人がいない場所で振っていた。それだけにお姉さんの行動は衝撃だった。お姉さんは、傘の水滴を全部拭き取ると小さなビニールにそのタオルを入れて鞄にしまった。そして、改札を抜けて行く。私は、お姉さんを視界にいれながら歩いた。折り畳まれて、全く濡れてない傘。私は、お姉さんの降りる駅までついてきてしまった。改札を抜けて、駅から出る時にお姉さんはゆっくりと傘を開いて歩き出した。私は、気になってついていく、お姉さんは、コンビニに入った。お姉さんは、また水滴を拭っていた。私は、あの日からお姉さんを見習って水滴を拭うようになっていた。


改札を抜けて、ホームに降りる。私以外の人の傘は濡れていて、小さな水溜まりが所々に出来ている。私だけ、雨が降ってなかったみたいで少し笑いそうになった。


電車がやってきて、乗り込むと拓夢の家がある駅にすぐに着いた。二駅先だと、まだ大丈夫だよね。私は、階段を上がる。改札を抜けて、拓夢に【着いたよ】とメッセージを送った。


「とっくに居たよ」


その声に顔を上げた。


「帽子かぶってるから、わからなかった」


「何となくね」


拓夢は、キャップを被っていた。


「そっか」


「行こうか!晩ご飯」


「うん」


手を繋いでくれると思って、差し出して恥ずかしくなった。拓夢は、いつものようにさりげなく握ってくれなかった。


【ダサっ】心の中で小さく呟いた。


「凛、どうした?」


「ううん」


ちょっと泣きそうになった。拓夢は、改札で別れた時とは別人だった。触れない距離を歩いて行く。まるで、見えない壁が存在してるように手は上手に触れなかった。


チリンチリン…


自転車が通りすぎる瞬間に水溜まりの水を跳ねた。


パシャ……


スカートの端が濡れた。


「大丈夫だった?」


「帰る」


「えっ?」


「帰る」


「どうした?」


拓夢が遠くに行ったみたいな気がして、ボロボロ涙が流れてくる。大人げないのなんて、わかってる。だけど、拓夢には変わらないで欲しくて…。さっきみたいにしていて欲しくて…。


「ごめんね、生理きたからお腹痛くて。今日は、帰るね」


今、思い付いた嘘を、丁寧にお皿に盛り付けるように拓夢に差し出した。

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