本性

美沙は、動揺を隠しきれていなかった。


「拓哉って、誰?」


「違うの、間違ったの拓夢」


「妊娠したとか嘘なんだろ?」


「拓夢」


「そういう嘘!いけないって思わないのか?」


「何で、そんなに怒ってるの?」


当たり前だ!凛が、赤ちゃんが出来ない事に苦しめられてるって言うのに…。美沙は、平然と嘘をついたんだ。


「嘘じゃない」


「じゃあ、証拠見せろよ!俺の子供だったって証拠」


「そんなのあるわけない」


美沙は、そう言って泣き出した。泣きたいのは、俺の方だ。


「下らない嘘つくなら、もっと俺を騙せよ」


涙がボロボロと流れては落ちていく。


「どういう意味?」


「俺、ずっと美沙を愛してたんだよ。彼女に出会うまでずっと…。なのに、何で!何で!そんな女になったんだよ」


美沙は、涙を拭いて立ち上がった。


「いつまでも、いつまでも、青臭いガキみたいな事言ってんなよ」


そう言って、俺の胸ぐらを美沙は掴んできた。


「殴るか?殺すか?好きにしろよ」


俺は、美沙に冷たい目を向けていたと思う。


「拓夢、そんな目で何でみるの?」


美沙は、俺の顔を見て怯える。


「二重人格だったりするのか?」


俺は、美沙の事を目を細めて見下ろしていた。


「はあ?もういいわ」


美沙は、人格が変わったように俺を睨み付けて、態度も話し方も180度変わった。そして、どうでもいいという素振りをみせて俺に話しだす。


「拓夢、妊娠してたのは本当よ」


俺は、驚いて美沙を見つめる。


「安心して、拓夢の子じゃないから」


そう言って、不適な笑みを浮かべる。


「誰の子だよ」


俺の言葉に、美沙は俺を見つめて話す。


川瀬拓哉かわせたくや


その名前に聞き覚えがあった。


「拓夢は、知ってるよね?ルビィのライブにいっつも来てたから」


「あっ!ああー」


川瀬拓哉は、ルビィのバンドのボーカルだった。今は、メジャーデビューをしてMALIAって名前に変わっている。


「川瀬さんって、もう雲の上みたいな人だよな」


俺の言葉に、美沙は遠い場所を見つめながら目を細める。そして、そんな事どうでもいいわって態度をして話しだした。


「拓夢、何で男って避妊しないの?気持ちいいから?それとも、征服した気になるから?」


「知らないよ」


「だよねー!だって、拓夢は、絵に描いたようないい子ちゃんだもんね」


「何なんだよ」


「褒めてるんだよ!ちゃんと避妊する所とか、口でさせない所とか、挿入する時までズボンを脱がない所とか…」


「褒められてるように思えないんだけど」


「そうかな?美沙ね、拓夢だけは違うって信じてたんだよ」


そう言って、美沙はスマホを取り出した。


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