大丈夫をあげる
私と拓夢は、洗面所にやってきた。
リリリーン…。拓夢のスマホは、凄い音量で鳴り響く。美沙さんは、拓夢がいるのに気づいて、さらに酷くドアを開けようとしているようだった。どうしてかは、よくわからないけれど…。さっきより声がダイレクトに響いている。
私は、怖くなって拓夢に「見えるの?」って尋ねた。「無理だと思う」って言いながら、拓夢の歯がガチガチと音を鳴らしている。私は、どうにかその震えを止めてあげたくて、拓夢を抱き締める。拓夢は、ガタガタ震えながらもさっきの話しをし始める。
動揺と恐怖で、頭の中の整理がついていないように感じる。それでも、拓夢は一生懸命話してくれる。その言葉に、美沙さんと言う人物像が、私には般若みたいな女の人に浮かんでくる。拓夢は、何かを受け止めたのか、ボロボロと泣き出しで、ガタガタと震え出す。
私は、「大丈夫だよ」って言って拓夢をギューっと抱き締める。拓夢は、ゆっくりゆっくり、言葉を捻り出しながら話す。愛していた人が、こんな人だって受け入れたくない気持ちがわかる。自分を傷つけ、自分以外の誰かを傷つけるような人間だって知りたくないよね。拓夢は、耳元で小さく「助けて」と言った。私は、拓夢をギューって抱き締める。わかるよ!私もめぐちゃんがそうだったから…。あんな人だって、知りたくなかったから…。拓夢の気持ちがわかるよ。
「大丈夫、大丈夫」いつだって、龍ちゃんが言ってくれた。私は、今、目の前にいる拓夢を助けてあげたい。龍ちゃんがくれた優しい「大丈夫」を…。心が満たされていく「大丈夫」を…。私は拓夢にあげたかった。それを受け取ってくれたのか、拓夢の体の震えがゆっくりと止まっていく。
拓夢に「好きだよ」って言われて胸がギュッて締め付けられる。拓夢は、私の頬をそっと撫でる。私は、その手を握りしめる。
また、小さな声で「助けて」って言われた。私は、拓夢を助けてあげたくて…。その手をシャツの中にいれた。
拓夢の「好きだよ」に私も答える。頭が真っ白になりたがってるのを感じる。
ガチャン…ガン…
その音にビクッとしたけど、私達は気にせずに笑った。私達の集中を途切れさすように音は大きくなっていく。
「見るよ」って言った拓夢の手を反射的に握りしめていた。もう、身体中が熱を持ち出して熱い。このまま、私を抱いて欲しい。
「集中して」
私の言葉に、拓夢は困った表情を浮かべる。もう、見つかったっていい。この渇きをこの疼きを止められなかった。体の奥底から沸き上がってくる欲望の泉にこのまま沈んでいきたくて私はこのまま止めたくなかった。
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