嫌な事?
「何か嫌な事、思い出させた?」
龍ちゃんの言葉に、首を横に振った。
「それなら、いいんだけど…。怖い顔してたから」
「そんなに?」
「うん」
「ごめんね!気づいてなかった」
「いいんだよ」
後、私達が50年生きるとしたら…。きっと、私達は損ばっかりするんだろうね…。それなら、それで!美味しいもの食べて、高いものをボンって買って…。有意義な時間やお金を使おう!そう思ったり何かするんだよ。龍ちゃん
「凛、ゆっくりゆっくり進めばいいから」
「うん」
龍ちゃんは、食べ終わったお皿を下げてくれる。
前にも後ろにも進みたくない。私、赤ちゃんが欲しいよ!どうして?治療を続けられないなんて言うの…。どうして?治療した人だけが、赤ちゃんを授かれるなら私はどうすればよかったの?続けたら、必ず手に入るなら続けたかった。諦めたくなかった。これが、私の本音。でも、諦めるしかなかった。そうしなきゃ、私…。龍ちゃんを残して死んじゃうかも知れないでしょ?
「凛、泣かないで」
龍ちゃんは、戻ってきて後ろからそっと私を抱き締めてくれる。
「龍ちゃん、私、長生きしたいよ」
「うん」
「龍ちゃんと一緒に年を取りたいよ」
「うん」
「赤ちゃんが出来て、50歳までで死んじゃうかもしれないなら…。私は、龍ちゃんとおじいちゃんとおばあちゃんになって、手を繋いで歩いて生きたいの」
龍ちゃんは、壊れ物を抱き締めるみたいに柔らかく私を抱き締めた。
「もう、やめようか…」
その言葉が重く肩にのし掛かった。
「駄目だよ」
まだ、続けたいって口に出したら壊れそうで言えない。それを言えば、私は壊れて、泣き叫ぶのを知ってる。情緒不安定になった私に、龍ちゃんはきっとあの時みたいに「ごめんね」を繰り返すのを分かってるから…。
だから、言えない。その言葉を飲み込んで、龍ちゃんの腕を掴んだ。
「いつかは、きっと。そうしなきゃ、いけない時がくるね」
頭の中から、精一杯、引っ張り出してきた言葉がこれだった。
「そうだね」
「その日は、私が決めるから」
「わかった」
「ごめんね、酷い言い方したよね」
「ううん。その日を決めるのは、命をここで育てる凛が決める事だよ」
龍ちゃんは、そう言って私のお腹に左手を当てる。
「凛が無理だって言ったら、俺は諦めるから…。大丈夫!凛の悲しみに比べたら、俺なんてたいした事ないから」
そう言って、私を抱き締めてる龍ちゃんの手がわからない程、微かに震えてて…。龍ちゃんが、泣いてるのを感じる。私の目からも涙が次から次へと湧き出る。
辛いね、悲しいね。どうして、こんな
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