明日花…

結局、明日花ちゃんには二度と会わなくて…。一週間後、彼女の友人だと名乗る人物が俺の前に現れた。


「こんにちは」


「こんにちは」


「星村さん」


「はい」


「これは、あなたの声ですよね?」


イヤホンを差し出されて聞かされる。あの日、無我夢中で美沙を抱いた声の全てが入っていた。


「どうして」


「明日花が、録音して私に送ってきました」


「そうですか…。酷いですよね」


「はい」


「明日花ちゃんに謝りたかったです」


「退院してきたら、会いますか?」


「入院してるんですか?」


俺の言葉に、その子は俯いた。


「この動画送ってきた日に自殺しようとしたんです」


「そんな」


「大丈夫ですよ!生きてますから」


明日花ちゃんが、どんな思いでこれを聞いたのかを考えたら…。胸がつぶれそうに痛かった。


「すみません。俺のせいで」


「関係ないです」


その子は、そう言って笑ってくれた。その日は、それで帰宅して…。数日後、俺は明日花ちゃんに会わせてもらった。


「ごめんなさい。俺、明日花ちゃんを凄く傷つけた」


「拓夢さんのせいじゃないですよ!色んな事が重なって、ワァーってなっちゃっただけですから」


「明日花ちゃん、本当にごめんなさい」


「だから、謝らないで下さい」


明日花ちゃんは、本当にいい子だった。


「バンドのファンは、やめませんから!これからも、ファンでいさせてください」


「ありがとう」


「番号消して下さい」


「どうして?」


「ファンと芸能人は、繋がっていませんよ」


「そうだよね」


俺は、明日花ちゃんの目の前で番号を消した。明日花ちゃんも消した。


「拓夢さん」


「はい」


「思い出ありがとうございました」


「こちらこそ、ありがとう」


そう言って、別れた。でも、この話しには続きがあって…。俺は、三年前に美沙と別れてから半年間明日花ちゃんと付き合っていた。結局、明日花ちゃんとはうまくいかなかった。数回したけれど…。あの日の美沙との声が頭の中を流れると言われた。美沙とは、もう終わってると話したけど…。「拓夢君は、悪くないから」と繰り返された。明日花ちゃんは、今、俺の友達の雅俊と付き合っている。たまたま、バンドのライブで出会って意気投合したのが雅俊だっただけで!俺が紹介したわけでもない。


「たっちゃん、もう飲み終わってるよね?」


美沙の言葉に現実に引き戻された。さっきから、何で長々思い出していたかというと、美沙は凛に同じことをするのではないかって事だった。下手したら、凛の旦那さんに会いに行きかねないのではないかって事だ。


「ほんとだ!なくなってた」


「でしょう?証明」


「お風呂入ろうよ!先に、シャワー浴びてきて」


「うん、わかった」


「バスタオル出すから」


「うん」


渋々だけど、美沙はお風呂場に行ってくれた。頑張れよ!俺。お前のせいで、俺の未来を壊すなよ!俺は、そう伝えてから、凛の履歴を全て削除した。凛の名前も変えた。


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