癒しさん
私は、スーパーに入った。
夕方の店内は、子連れが走り回っていた。
【めんどくさい】
床に落ちてる子供を見つめて思っていた。
「ママー」って泣きながらグルグル回っていた。
ママは、どこにもいない。
私は、気にせず買い物を始めた。
ドンッ……。
「あっ!!」
さっきの子供がぶつかってきたせいで、トマトを床に落としてしまった。
謝らずに走ってくクソガキ!子供が欲しいのに、こんな些細な事も許せない。それを誰かに話すと「子供がする事にいちいち目くじらたてない方がいいわよ」って言われてしまう。
250円のトマトが床で潰れたとしても笑って「いいのよー」って言わなくちゃならないのだ。私は、トマトを拾おうとした。
「片付けますよ!僕が…」
「えっ?」
平田と書かれた名札を見つめていた。
「払わなくていいですよ!見てましたから」
話しかけてきたのは、紛れもない私の癒しさんだった。
「すみません」
「謝らないでいいんですよ!さっきの子がぶつかってきたんですから…」
私は、このキラキラを直視出来ない人間になった気がしていた。
「あっ!トマトは、こっちの方が甘くて美味しいですよ」
そう言って、掌に真っ赤なトマトを乗せられた。
「ありがとう」
「あの、よかったら今度」
「えっ?」
「今度、お茶飲みませんか?」
「どういう意味ですか?」
「単純に興味ですよ」
「私にですか?」
「はい」
「こんなおばさんにですか?」
「おばさんじゃないですよ」
「いや、それでも…」
「お茶飲むだけですから、いつも来てくれてありがとうございます」
そう言って、癒しさんはポケットからメモを取り出してさらさらと何かを書いて私の手に握らせた。
「じゃあ、片付けます」
そう言った彼から、私は離れた。頭がボッーとしながら買い物かごに商品をいれた。お会計をして店をでた。拓夢のお陰なのか、運命の歯車が別の方向に動き出しているのを感じた。
買い物袋を下げて、家に帰る。財布にさっきのメモをしまっていた。大好きなお家…。だけど、罪悪感のせいで体が重たい。
キッチンでスーパーの袋の中身を取り出した。
トマト、チーズ、チーズ、チーズ、チーズ!!!チーズ?!
五種類もチーズを買っていた。最悪。カプレーゼ用のチーズだけでよかったのに…。トンテキをする為のお肉やカラフルなピーマンを取り出した。私は、冷蔵庫にいれた。
「シャワー浴びよう」
洗面所に向かった。シャワーを捻って、服を脱いだ。そのまま入る。
鏡に映った自分を見つめながら、癒しさんのキラキラの破壊力と私の罪深き行為を思い出していた。
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