新世界・Ⅲ

 俺がこの世界に転生して5年が経った。全く見たことのなかったこの世界の文字も読めるようになったし、この世界に存在する魔法についても段々とわかってきた。



 まあそれもこれも、全ては我が母シエラと、「教会」の神父たるロレンゼン神父のおかげだ。



 この世界では、「聖神教会」と呼ばれる宗教組織が広く俺達の生活に根ざしている。政治も商売も教育も、あまねくこの世界の社会構造が、聖神教会と密接に関わり合って成り立っている。



 それぞれの地域ごとに教会があり、そこで布教活動や地域集会、更には幼児教育の役割も果たしていて、地域の中心となっている。


 前世界に照らし合わせれば、キリスト教の教会が公民館や幼稚園などの機能を兼ね備えた、総合機関のような施設だ。



 聖神教会のトレードマークは「鳥の羽と片眼」で、教会の祭壇奥の壁に大きく掲げられている。また、店など村の至るところに大きいものも小さいものも点在する。そしてそれは、教会が運営していることを示しているのだ。



 この世界では、義務教育として子供は6歳から12歳までは基礎学校と呼ばれる前世界の小学校のようなものに通い、読み書きや簡単な剣術、魔術を学ぶ。その後は、剣術学校や魔法学校、商業学校、聖職学校などのより専門的な学校に進学したり、冒険者としてダンジョンの攻略やモンスターの討伐に勤しんだりといったそれぞれの進路を歩む。



 そして基礎学校に通う前の3歳から5歳ほどの未就学児は、たいていその地域の教会が行っている幼児教育事業、通称「小学校」に預けられる。



 俺は毎朝、シエラに連れられ教会の小学校に預けられる。


 俺の住んでいる「リカス村」にも教会はあって、平日は俺を含めた村の小さな子供たちが集う。



 小学校では基礎学校に先行して、文字の読み書きや簡単な魔術の授業、そして何より子供たちのふれあいの遊びが行われる。



 とは言え、俺は精神的には既にいい大人なので他の子に交じって遊んだりすることは進んではせず、小学校にある魔法の本などを読み漁っていた。かなりませた子供に見えたことだろう。



 「やあ、ノエル君。きみは皆とは遊ばないのかな?」



 教会のシスター達が他の子どもたちの世話に手を尽くしている中、そんな俺に構ってくれたのが、この教会の神父であるロレンゼン神父だ。



 アルフレヒド·フォルテ·ロレンゼン神父。外見は還暦過ぎ位の、白髪と長い白髭をたくわえた優しそうな老人だ。


 ...なんでも、シスターの立ち話を盗み聞いたところによると、若い頃は教会の中心でもブイブイ言わせていたやり手だったそうな。


 しかし、年齢からか残りの余生を地方の教会での布教活動に尽くすことに決めたとのこと。



 「走るのは苦手なのかな、ノエル君。それなら、私と一緒に折り紙でもしようか。ノエル君は、何か折れるかな?私ももう年だが、これでも手先は器用でね...」



 「ありがとうございます、神父。でもぼく、皆と遊ぶよりも、魔法についてもっともっと知りたいたいんだ。だから、本を読んでいるの」



 まあこれは俺の本音だ。この世界では魔法が一般生活のなかで使われているが、俺はまだ水滴を生み出したりする程度で殆ど扱えない。出来るだけ早く、習得したいところだ。



 「そうか、ノエル君。...きみは、とても魔法が好きなんだね。たしかに、きみは他の皆より特別魔法の習得が早いようだからね。退屈しちゃったのかな、ノエル君」



 5歳になり、小学校では簡単な魔法の授業が始まった。俺はどうにか水滴を作り出せた。しかし、他の子供たちはまだ神父やシスターの話を聞くだけでも精一杯、魔法を使える子はまだいない。



 「そうか、そうか。 …流石は彼女の子だな。それならね、ノエル君。きみには、私が特別にけいこをつけてあげよう」



 そうして、俺はロレンゼン神父に魔法の稽古をつけてもらえることになった。


 渡りに船だ。この世界の魔法という神秘にいち早く触れられる機会だ。全力でやろう。



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