第8話 出所はしてない!

 会社がヒントだ。そう分かったので、とことん「立川コーポレーション」のことを調べている。


「どう? なんか見つかったか?」


 神宮がしかめっ面で向かい合っているパソコン画面をのぞき込んだ。 カラフルに装飾されたホームページを見ているらしい。


 ちなみにこのパソコンは俺のものである。……少なくとも神宮に盗られる前までは。


「うーん。なんか、ないかなー」


 ひたすら下にスクロールしていく神宮。だが目ぼしい情報は見つからず、延々と続く文章を下に流していくだけだ。


「特になしか……」


 結局これと言った事は書かれておらず、サイトの最後まで来てしまった。末尾には小さな文字で「社員専用」と書かれたリンクだけが表示されていた。


 カチッ。


「おいっ」

「どうしたの?」

「当然でしょ、みたいな顔をするな。社員専用って書いてあったよな? 開いていいのか?」

「あぁ、大丈夫よ。このパソコンの個人情報なら漏れても問題ないの」

「そりゃ俺のだからな!」


 ふざけんなっ。

 まぁ神宮に常識なんて求めてないけどさ。

 せめて躊躇くらいしてくれ。カーソルが一直線だったんだが。


「それで、社員専用ってのは何なんだ?」

「なんかね、パスワードないと開けないみたい。たぶん社内の掲示板サイトみたいな感じかなぁ?」

「あぁそうか。でもパスワードが必要なんじゃ仕方ないな」


 パソコンの安全性が保たれたことに安心し、俺は機種を閉じようとする。

 流石の名探偵もハッキングの技術は持ち合わせているまい。


「ちょっと待ってて」

「どうした? パスワード知らないと入れないんだろ?」

「そうだけど……」


 と言いつつパソコンに何やら入力し始める。


「おい、何やってんだ」

「いや、適当に打っていったら当たるかなって」

「はぁ? そんなの当たる訳な……」

「あっ。入れた」

「えーーーーーー。嘘だぁ」

「ほんとだけど……。ほら」


 差し出された画面を見ると、確かにログイン完了と書かれている。


「えっ? 暗証番号知らなかったんだよね?」

「うん」

「じゃあ、なんで?」

「当てずっぽうでこうやって入力したら、いけたの」


Tatikawa-corp_path


「なんでだよ! はぁー? ほんとに意味わからん。Tatikawa立川-corpコーポレーションはまだ理解できるけど path ってなんだよ、おい」

「え? パスワードのパスだよ」

「いや、パスワードのパスは pass なんだけどね!?」

「あっそうなの? まぁ結果オーライだね。ラッキー♪」

「はぁ……」


 そうだった。忘れていた。コイツが事件のこととなると、異常に運がいいことを。

 いや、それにしてもこれは運がいいとかいう次元超えてるな。

  一体どんだけ確率低いと思ってるんだよ……。ラッキー♪って言ってる場合じゃないだろ。


「あっ」

「ん? どうしたんだ」

「なんか『島影風都さんが出社しました』って表示されたんだけど。誰かしら? このさちうすそうな名前」

「いや俺だわ。ってか状況最悪じゃねぇか。俺の本名がこのサイトの記録に残ったってことだろ?」

「あはははは。てか良かったじゃん、助手くん出所したんだ」

「俺がしたのは出所じゃなくて出社だ! いや、別に出社もしてねぇけどな」


 こんなに言いたい放題好き勝手して、事件解決しなかったら絶対許さん。


「まぁ、でもこのサイトあれだね。タイムカードも兼ねてるのかもね」

「ログインしたら出社、ログアウトしたら退社ってことか?」

「うん。しかも見た感じだと連絡取り合うのとか、作業とか全部このサイトの中でやってるっぽい」


 そんな重要なサイトに運だけで侵入した神宮は何なんだろうか?


「ふーん、今はやっぱり株主総会の話が多いね」

「あぁそうか。あれだろ、2週間後にやる予定の」

「そうそう。他には……どこの会社と契約を結ぶかみたいな?」

「へぇ、どれどれ」


 いや、これって不正アクセス禁止法かなにかの法律に間違いなく触れているよな?

 まぁ、いいか。神宮が勝手にやったことだから……と言い訳し、パソコン画面をのぞく。


【契約の件ですが、どうされますか】 〈営業部長 芹沢〉


【野田建設で進めてくれ】〈副社長 稲村〉


【ですがミヤタホームズのほうが実績も豊富ですし、価格も良心的ですよね】〈営業部長 芹沢〉


【構わん。気にするな】〈副社長 稲村〉


【そうですか……。しかも野田建設って過去に社員の逮捕歴もありますし、気がかりですが】〈営業部長 芹沢〉


【ただもう上で決まったことだ】〈副社長 稲村〉


【それでは、分かりました。野田建設との契約書、作成しておきます】〈営業部長 稲村〉


「うーん、なんか怪しくないか」

「そうね。だいぶ副社長のゴリ押しだね」

「でもこれと立川の万引きに関係があるとは思えないなぁ」

「そうかしら?」

「え?」

「…………これで解決かもしれない」

「ええっ?」


 早すぎないか? ダメだ、全くついていけない。

 一応、俺も頭脳派のキャラのはずなんだがな。今回ばかりは神宮の推理の聞き役に回るしかないようだ。


「それで、立川さんの万引きの動機は何なんだ? このメッセージのやり取りとどう繋がるんだよ」

「うーん。ちょっと待って。彼女本人に確認しておきたい事があるから」


 まったく……。探偵がもったいぶるのはどこの世界も同じらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る