食ったれ、ミミック娘ちゃん!!
天衣縫目
第一部
ダンジョンの中で
ぐーーーーーーーーーー。
「お腹減ったなぁ……」
ミミック娘のミミクルはそう独り
「どうして誰も来ないのよーーー」
そう叫んでみても、声は虚しくダンジョンの壁に反響するだけである。
「この体、不便でしょうがないよなぁ。
冒険者たちみたいに自分の足で動けたらよかったのになー」
ぐーーーーーーーーーーー。
また、低くたなびくおなかの音がダンジョン内に響き渡る。ミミックの一日はただひたすら冒険者がやってくるのを待つ。ただ、それだけ。
ひたすら待つ。
飽きることもなく待つ。
待つ、待つ、待つ。
そして、間抜けな冒険者が宝箱のふたを開ければ、口を大きく開けて、それを食する。食す、といってもその肉体を食べているわけではない。その魔力を食しているのである。そうやって、冒険者から搾り取った魔力を使い、ダンジョンの別の場所に転送して、あとはまた、ひたすら”待つ、待つ、待つ”だけ。
「おっ、こんな部屋あったんだな、隠し部屋か。宝箱もあるじゃん、ラッキー」
「やめたほうがいいわよ。うちのパーティーのシーフは、もうモンスターにやられて死んでるんだから。罠も解除できないし、もしもミミックだったらどうすんの。
私、助けないわよ」
「大丈夫、大丈夫。勇者の俺様が手ぶらで帰れないだろう?それに死んだ奴らの蘇生費用も稼がないといけないし。神父のヤロウ、かなりぼるからな」
「神父様のこと、白魔導士の前で悪く言わないの」
「へーい」
ただまつだけのうんざりするような日々を過ごしていたミミクルはついに冒険者の気配を感じ、「しめしめ」と心の中で思った。
近づいてくる足音は、ミミックにとってウェイターの持ってくる食前酒だ。食欲の権化とかしたミミクルは涎をたらして、その瞬間を待ち侘びた。
『来た!』
「うぎゃあああああああああああああああ。
ミミックだ!!!」
……ってあれ?
一向にミミクルの宝箱のふたは開かない。それなのに自称・勇者の叫び声が聞こえ、そして、ばりばり、ぼきゅぼきゅとミミック特有の食事音が響いてくる。
ミミクルが宝箱のフタをそぉーっと持ち上げ、その隙間からのぞいたその時、隣の宝箱からボロ雑巾のように自称・勇者様がぺっと吐き出されるのが見えた。
「まったく言わんこっちゃない」
白魔導士の女がそう言った時、ミミクルは悟った。
「これ、隣の宝箱だ。ていうか、あいつもミミックだったのか……。てっきり、ホンモノだと思ってたし、ワンチャン食べ物でも入っていないかなぁと思ってたに……」
またひたすら待ちぼうけの日々が始まり、ミミクルは
「もういやだーーー」
と、叫んだ。
その声を聞くモノは誰もいなかったが、ただ、ぐーとなったお腹の音だけが返事をした。
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