第9話
「では、もう関わる機会はないと思いますがお互い頑張りましょうね!」
「あ……はい」
マーベルがダリルを帰るように促すが、ダリルは止まったまま動かない。
「あの、なにか……?」
恥ずかしそうにモジモジと服の裾を掴みながら、必死で何かを伝えようとするダリルが可愛く見えてしまう。
キュンとする心を抑えて自分に言い聞かせていた。
(いかん……今は天使とて数年後は悪魔なり)
トリニティに対して容赦なく山に投げ捨てるように指示を出したダリルだったが、この姿を見てしまえばそんな事を考えるようには思えない。
(もしや……いや、もしかしなくてもマーベルの指示か?)
マーベルが目を細めて観察するようにじっくりと見ている。
居心地が悪い視線がチクチクと突き刺さる。
(マーベル……要注意人物ね。ダリルを守ろうとするし、忠誠心が高そうだもの)
ビビりながらもマーベルに抵抗するように笑顔で牽制していると……。
「あの、一つお伺いしたいのですが……」
「なんでしょうか?」
「トリニティ様は先程、言っていたタイプの方が現れたらどうするのですか?」
「……え?」
「理想の男性が現れたら……どうするのですか?」
「えっと……」
「勿論、結婚するのですよね?」
「!?」
「結婚、するのですよね?」
ダリルの圧にカクカクと首を動かした。
「もっ……勿論、結婚致します」
「そうなんですね……分かりました」
「???」
「本日は、ありがとうございました」
今……何かのフラグが立ったような気がするが気のせいだろうか?
しかしトリニティには自信があった。
(そんな男はこの世に居ないのよッ!!!)
今、言ったような理想な男性が現れたら此方から結婚を願い出たいくらいである。
最後の最後に嬉しそうに微笑みながら去っていくダリルの後ろ姿を見て首を傾げた。
その後にマーベルは顔を歪めて苛立ちを隠しもせずに去っていく。
(なんて感じ悪い奴だ)
心の中で毒を吐きながら二人の背中を見送った。
そしてケリーもマーベルに向かってベーと舌を出す。
誰にでもニコニコしている彼女が、こんな反応を示すのも珍しい。
(やはり危険なのね! マーベル……)
何故か最後にモヤっとしたものを感じたが、自分の目的は果たしたので良しとしよう。
作り笑いをしすぎて疲れた頬を揉みながらケリーと共に部屋へと戻る。
「ケリー! 無事に顔合わせ済んだわね」
「お疲れ様です~! お嬢様」
「疲れたわ……! わたくし的に完璧だったと思うのだけど、どうだった?」
「……えっと、あの」
「どうかした?」
ケリーは手のひらで頬を挟みながら「うーん」と可愛い声を出しながら、衝撃的な言葉を口にする。
「全部見てたんですけど……」
「うんうん」
「なんか、やばくないですかぁ?」
「…………」
「…………」
「なんで……?」
ケリーの言葉に耳を疑った。
何故ならば自分では完璧にダリルを躱せたと思っていたからだ。
「だってぇ……お嬢様ってば理想の相手が現れたら結婚するって言っていたじゃないですか?」
「……えぇ、だってそんな完璧な男が現れるわけないもの」
「でもケリーは、危ない予感がしたのです」
それを聞いて思わず吹き出してしまった。
「アハハッ! ケリーったら何言ってるのよ! そもそも身長が高くてイケメンで包容力があって、家族を大切にして、思いやりがあって、いつも明るくて笑顔が爽やかで、スポーツ万能で、頭が良くて、お金持ちで、わたくしを海のように広い心で優しく見守ってくれる一途で男らしい素敵な高スペックな男性なんて存在する訳ないじゃない!」
「でもぉ……」
「現実に存在してるのなら此方から結婚を申し込んでやるわ!」
「うーん、まぁ……そうですよね!」
「そうよ! それよりもケリーはどうなの!? あのマーベルっていう人は? ケリーの事をずっと見ていたじゃない」
「ケリーには分かります。アイツは『悪魔』なのです」
「悪魔……?」
ケリーの背中からメラメラと怒りの炎が燃えている。
やはり好意があってマーベルを見ていたのではなく、敵意剥き出しで牽制していただけなようだ。
「絶対に関わっちゃダメです!」
「……そうね、わたくしもそう思うわ」
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