第4話
ダリルと会う直前に時間が戻ったのなら、それは運命を変えるチャンスなのかもしれない。
迫り来る危機に怯えていると、ケリーは珍しく難しい顔をしている。
「お嬢様、ダリル殿下の顔合わせですけど、やっぱりケリーは嫌な予感がするんです……!」
ケリーの言葉に驚いた後、強く頷いた。
『嫌な予感がする』その通りである。
しかし、ケリーがダリルとの婚約を良く思っていないとは意外である。
「ねぇ、ケリー」
「はい、何でしょうか……?」
「ダリル殿下に好かれるには、どうしたらいいと思う?」
「ぁ……でも、ケリーは」
「教えて頂戴」
「…………はい。ケリーデータによりますと、ダリル殿下は清楚で大人しめな子がお好きなようですよ?」
何処で情報を集めたのか『ケリーデータ』恐るべしである。
少しケリーデータの内情を探ってみると、どうやら侍女同士の噂で聞いたのだそうだ。
しかしケリーを見ていて思うことは只一つ……合コンでは絶対に一緒になりたくないタイプであるという事だ。
「なら、婚約者候補から外れる為には真逆の格好をした方がいいかしら?」
「……え!?」
「わたくし、ケリーの『嫌な予感』を信じることにしたの!」
ケリーはその言葉を聞いて目を丸くしている。
「でも、お嬢様は昨日まで『お父様とお母様の為にも、絶対にダリル殿下の婚約者になりたいわ』って言っていたのに……!」
「気が変わったのよ。ドレスと髪型を変えてくれる?」
「ドレスと髪型……? 何故ドレスを変えるのですか?」
ケリーは唇に人差し指を当ると、体をクネクネさせて悩むような素振りを見せる。
バインバインの胸に腕が挟まっている。なんて羨ましいのだろうか。
「ダリル殿下のタイプにならなければいいと思って!」
「ああ、なるほど!」
先程考えたことを全て実践することにしたのだ。
(まずはトリニティの可愛さを潰して、真逆の印象を作る!)
その為にはケリーの協力は必須である。
「そんなに気合い入れたドレスじゃなくていいの」
「でも、本当に良いんですか?」
「どうして?」
「御令嬢達は皆、ダリル殿下の婚約者の座を狙っていますし……お嬢様は本当にケリーの言うことを信じて決めていいんですか?」
確かにケリーのいうことも一理ある。
ダリルは貴族の令嬢からしたら超高物件といえるだろう。
けれど此処が乙女ゲームの世界であり、トリニティが悪役令嬢と知っているからこそ、リスキーな道は通りたくはなかった。
ダリルに執着しなければ全て上手くいくという保証はない。
それにこのまま婚約者になり、ヒロインと出会ってから動くという手もある。
ヒロインがダリルルートを選ばない可能性だってあるだろう。
それにダリルへの接し方が変われば、ダリルの考え方が変わるかもしれないし、ヒロインに関わらなければ断罪ルートからサヨナラ出来る可能性は高い。
頭をフル回転させて考えた結果、目の前の選択肢は無数に広がっている。
しかしダリルを毛ほども好きではない今の自分にとっては、やはり関係者にはならない事が一番の解決策である。
(目指せモブ……関わらない、触れない、さよならバイバイ)
幸い婚約者ではなく、今は候補だ。
ダリルに嫌われない程度に、やんわりと興味を失せさせてこの場を乗り切ればいい。
そして父親と母親に頼んで婚約者候補を見繕ってもらい、顔合わせで厳選。
そして金持ちな婚約者を見つけて幸せになる。
『目指せモブで極楽ハッピー金持ちルート』
そうでなくても、こんなに天使のように可愛らしい見た目で生まれたのだ。
(容姿だけで勝ち組じゃんか)
王子の婚約者にならなくたって余裕で人生どうにかなりそうである。
周り道も寄り道も必要ない。
(ならば、最短ルートで突き進むのみよ……!)
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