若隠居のダンジョン法改正(2)

 神谷さんはジュースを飲んで、ふうと溜め息をついた。

「お疲れ様です」

 言って、お土産に冷凍した実を渡そうと決めた。

「やっぱり、大変ですか」

 幹彦が訊くと、頷く。

「そうですね。あの事故がきっかけで、一般人でも念のためにポーションをと考える人が急増したようで、中級程度のポーションですら三倍以上の値段でオークションで取り引きされています。

 野党は大臣や首相に追及しますし、これは野党と与党が入れ替わらなくとも、ダンジョン法の改正があるでしょうね」

「まあ、ダンジョン産の食品が人気で、色々と不利を被っている人がいることは事実ですし、ポーションを使えるのが金持ち優先とかじゃ、確かに不公平感はありますよね」

 言うと、揃って溜め息をつく。

 チビはあっさりとしたものだ。

「強い者が勝って生き残る。それだけのことだろうに。人は面倒だな」

 それに今度は、苦笑を浮かべた。

「あの事故でポーションを使った人、ネットでもつるし上げられてるぜ。売った方もな。なんで重傷者に売らなかったのかって」

「そこはまあ、値段でしょうかね。責めるのも、責めにくいですけど」

 神谷さんはそう言ったが、考えてしまう。

「でも、重傷者が意識不明とかで何も言えず、それで使えないとかいうことにもなりかねないですよね。明確な基準とかも決めにくいですし」

「倫理観頼みってわけにもなあ」

「その辺も、法改正に盛り込む予定です。今、官邸で各関係省庁が集まって議論している最中です。選挙対策の真っ最中だってぼやきながら」

 そのしわ寄せで、神谷さんたち官僚が忙殺されているらしい。

「とりあえず、ジュースを持って帰ってください。冷凍ですからそのまま食べるか、ミキサーにかけるかですね」

 僕たちはそう言って神谷さんをねぎらった。

 しかし、そんな他人事ではなくなってきたのである。

 これらのことをどう考えるか、探索者の意見を聞きたいと、マスコミ数社や政党から手紙が届き、電話がかかるようになったのだ。

「嫌だな、これは。何でうちに言うんだよ。街頭インタビューでいいじゃないか」

 ぼやくと、幹彦は面倒くさそうに手紙を重ね、

「一応日本では名が通ってるからな、俺たち」

と言う。

「面倒くさい」

「全くだぜ」

 そうして、目当ての素材を求めて、港区ダンジョンへと出かけたのだった。


 三十二階をうろついて首尾良く希少なその魔物を見つけ、討伐して素早く解体して素材をゲットすると、後は安心して皆で好きに暴れて回る。

 そうして買い取りカウンターへと戻ってきたのだが、そこで何人かが目に付いた。

 大量の肉を保冷ケースに入れる集団は、専門業者という感じがする。

 食品は今のところ探索者本人のものという扱いなので、違反はしていない。

 また別のチームは、ポーションを買い取りたいと言われて断り、オークションの方が高額になると話している。

 これもまた、違反ではない。

「色々と考える時期ではあるみたいだな」

「そうだな」

 僕たちはカウンターへと近付いた。







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