第45話 食事の前に

 朝になり、連絡を受けて来た領都の兵士から報奨金を受け取ってサインをする。この後彼らはどうなるのかと訊いたら、死刑か無期犯罪奴隷になるだろうと言われた。

 こちらでは、死刑がある。その下には懲役刑があるが、その期間中は犯罪奴隷となり、刑務所や刑務所になっている鉱山などに送られて働かされる。罪の重さで、重労働だったり軽作業だったりの違いがあるし、刑期も変わる。日本の懲役刑では作業で得た賃金を出所の時に貰えるが、こちらではそれが国や領のものとなると考えればいい。

「行くか」

 護送のために馬車に乗せられる彼らから目を離し、僕達は再び魔の森を目指した。


 雰囲気的には富士樹海という感じだった。樹海も、遊歩道があり、そこを歩いている限りは森林浴ができて気持ちがいい。しかし木々の茂る奥に道から逸れて入って行くと、方向が分からなくなったりして、恐ろしくなって来る。

 魔の森も、ほんの入り口は普通の森の周辺に見えた。小鳥の声もしているし、小さな花も咲いている。

 しかしほんの少し森に入ると、鳥は鳥でも、「ギャアー」などという怪獣みたいな声が聞こえ始め、花も、食虫植物や、「食べるのは虫じゃない。動物だろう」という花が咲き始める。

「怖い所だな」

 びくついてしまうが、チビは平気そうに散歩の如く歩き、幹彦も悔しい事に意外と平気そうだ。

「へへっ。気配察知で、魔物がいればわかるからな」

「くそ、いいな」

 思わず言えば、チビが、

「気配を断てるやつ、ミキヒコもあるだろう。あれがあってミキヒコよりも上なら、気配がわからんぞ」

と言えば、幹彦も途端に挙動不審者の仲間入りをした。

 それでも、浅い部分にいきなり高ランクの物凄く強い魔物がいる事はほぼない。それなりに弱い部類で、奥へ行くほど強くなるらしい。

 なので、奥へといきなり進む事はせず、珍しい薬草などを見付けては移植用に引き抜いたり、手に負えそうなものを狩ったりしていた。

 それで何だかんだと持ち帰る部位が増え、肉もたくさん集まり、日も暮れて来たので、キャンプだ。間違えた。野営だ。

 流石に魔の森の中では怖くて夜を明かせない。なので昨日と同じように、森の外でテントを張る事にした。

「今日はどれにする?イノシシもトリもウサギもシカもあるよ」

「そうだなあ。トリはどうだ?イノシシもシカも、ソースや味噌で食べた方が美味いだろ」

「私も賛成だ!」

 幹彦とチビが言い、それではトリにしようと収納空間からトリの肉を出す。

「幹彦にもあったら便利だろうにな。そういうバッグがあるらしいから、どこかで術式を見られないかな」

 いろんな魔道具を解体して術式を読み解いたのだが、空間拡張の魔道具はまだ見た事が無い。

「マジックバッグとかいう名前のやつな。エルゼでも買えば相当な値段がするらしいぜ。まあ、駆け出しの冒険者には手は出せねえだろうし、持ってる奴は、盗難を恐れてバレないようにしてるんじゃねえか」

 幹彦が言い、オオコウモリの羽で火を大きくする。

 トリの腹の中まで魔術で水を出してよく洗い、腹腔内に香草やニンニクやショウガを詰め、卵白と塩を混ぜたもので包んで焼く。塩窯焼きだ。

 卵黄の半分は牛乳と砂糖を混ぜてロールパンを浸しておく。明日の朝これを焼けば、フレンチトーストだ。

 もう半分の卵黄は、ゆでたパスタと炒めたベーコンを入れて混ぜ、塩と黒コショウで味を調えて、カルボナーラだ。

「今日の晩飯は何何?」

「トリの塩窯焼きとスパゲティカルボナーラ、コンソメスープ」

「美味そう!あ、キノコ発見。ちょっと炙って塩を振って食ったら──」

「やめろ、ミキヒコ。死ぬぞ」

「げ」

 危ない所だった。

 こうして肉が焼けるのを待っていたのだが、ガラガラと馬車の近付いて来る音がして、何となく緊張した。

「ん?追われてる?」

 幹彦が真面目な顔になった。

「そのようだな。馬車を10人ほどの人間が追いかけているぞ」

 どうしようかと互いに顔を見合わせ、同時に嘆息して立ち上がった。


 






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