第37話 実験
門から外に出ると、人のいない方へとそそくさと移動する。
そこでチビは大きくなり、僕はカバンからポーションを取り出した。
「取り敢えず、疲れてもいないし魔力も減っていないし、これからだな」
緑色の治癒ポーションを見る。
と、何と説明すればいいのだろう。突然閃いたというのか、唐突に知識が生まれたというのか、そういう状態になった。つまり、眺めていたポーションについて、突然わかったのだ。
「うわ、何かよくわからないけど、色々とわかったぞ」
チビがああと頷いた。
「鑑定したんだな」
「鑑定……そういえば、そんなのがあったな」
「ああ。いきなり色々あったから、忘れてたぜ」
僕も幹彦も思い出した。
「で、なんて?」
「うん。下級治癒ポーション。軽度の外傷に効く。原材料はエトワ草の葉と錬金水。葉をすり潰して錬金水を1対3の割合で混ぜ、沸騰させない程度の温度で半量まで煮詰めて作るらしい」
言うと、幹彦はポカンとした顔で僕の顔を見、1拍置いて叫んだ。
「ええーっ!?すげえ!便利だなあ!でも、要は青汁的なやつ?」
言われると、幹彦共々テンションが下がった。
「青汁1杯に、円換算で約500円?それは高いのか安いのか?」
僕は唸りながら答えた。
「この程度なら、消毒薬とバンドエイドでいい気がするな」
チビは、おかしそうに笑っている。
その調子でほかも見てみた。
原材料も製造方法も、効果もわかる。
「わかるけど、この上級薬の『そこそこ深い傷』のそこそこってどの程度だろう?」
僕が言うと、幹彦も考え込んだ。
「わかってないと、いざって時に困ると思うんだよ」
「まあ、それは否定しない。そもそも治癒魔術だって、どの程度までならいけるのかわからないままだしな」
そして、考え、同時に言った。
「やっぱり、やるか」
「おう」
「僕が斬るからもしもの時は頼むな」
「いや、俺がそっちをやるから史緒は万が一に備えろよ」
どちらが実験台になるかでもめだした。
「痛いぜ?史緒痛いの嫌だろう。予防注射の時、いっつも反対向いて硬くなってたもんな」
「小学校低学年の話だろう、それ。幹彦だって自転車で転んで泣いただろう」
「骨折したんだよ!泣くだろう?小学生だったんだし!」
チビは退屈そうに欠伸をしていたが、耳をピクリとさせて言った。
「じゃれ合いはそのくらいにしておけ。誰か近付いて来るぞ。追われているようだな」
僕も幹彦も、すぐに気を引き締めて辺りを見回しながら耳を澄ました。
すぐに小さな声で、
「追いつかれる!」
「俺は置いて逃げろ!」
などという声が聞こえた。
「向こうだ!」
幹彦がそう言って森の中へと走って行き、僕とチビもすぐに追いかけた。
前方に、肩からも足からも血を流した男を含む3人と、その彼らを狙うクマがいた。
「ツキノワグマか!?」
「いや、ビッグベアだ」
冷静にチビが訂正する。
そして幹彦は、刀を抜いて突っ込んで行っていた。
「下がれ!」
手を振り上げていたクマに斬りかかり、クマを一時的に何歩か後退させる。
僕とチビも追いつき、襲われていた3人の前に立って構える。
「ガウウ!」
クマは吠え、両手を振り上げて威嚇した。が、それは幹彦にとっては大きな隙でしかない。がら空きの胴に刀を一閃させる。
しかし毛が硬いのか、刃が入らない。
クマは大きな爪を生やした腕を振り下ろし、幹彦はそれをすいとかわした。それをクマは、執拗に追う。
その足を土の杭で突き上げて転ばせ、幹彦に言った。
「目とか耳孔とかは固くないはずだぞ!生物なら!」
「おう!」
幹彦は躊躇うことなく目に刀を突き立てた。
「ガアアア!!」
両手を振ってクマが苦しむが、素早く刀を抜いて下がる。
「首の下の三日月形の部分は毛が柔らかい!」
チビが言うと、即、幹彦はその部分に刀の刃を入れた。
それでクマは、地響きを立てて倒れた。
「やっぱり、ツキノワグマじゃないか。
幹彦、ケガはないな?」
言うと、幹彦は血ぶりをして振り返った。
「ああ、俺は大丈夫だぜ」
そして、追われていた3人の方を振り返り、同時に思った。
(チャーンス!)
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