第11話 グループ実習

 その後もいくらか犬やネズミに似た魔物を倒し、遺体を袋に入れて持ち帰る。

 なかなか暴力をふるう機会もないのに、魔物とは言え殺すのだ。興奮したり怯えたりしてはいたが、自衛官が見本を示すのを見ているうちに、慣れて行ったらしい。

 休憩を挟んでこれからはグループに分かれて中に入り、指定の魔物を倒し、持ち帰ることになっている。そして、自衛官がするのを見ながら、自分達で解体して魔石を取り出さないといけない。

 グループは自分達で組めばよく、最低2人、最高5人となっていた。

 勿論、僕は幹彦と組むし、チビもここから加わることになっている。

「やっぱり、映像とかとは違うな」

 幹彦が興奮を抑えようとしながら言った。

「やっぱりね。できないって人もいるんじゃないかな」

 泣きべそをかいている女性もいるのを横目で見て言う。

「まあ、スライムはともかく、イヌとかヒトに似ているのはなあ」

「向こうが攻撃してくれば反撃せずにはいられないから、それで平気になれる人も多いかも」

 言うと、幹彦も頷いて同意した。

「チビも気を付けるんだぞ」

「ワン!」

 チビが尻尾を振って応えた時、休憩が終わって、順番にグループ実習が始まった。


 幹彦も僕も借り物の剣とシャベルを持っている。準備されているのがシャベルと剣で、そのどちらかを借りる事になっていた。このフロア程度ならこれで十分らしい。

 スライムは、剣を刺したりシャベルで叩いたりチビが腕を軽く振るうだけで面白いように弾けた。

 色んなスライムがいた気がしたが、金属も酸のものも、チビが軽くパーンとしていた。

 平気かと驚いたが、全くの無傷で、ケロリとしていた。

「チビ、凄いな。でも、無理するなよ」

「ワン!」

 ネズミもイヌも、どうという事は無い。チビはじゃれかかるように飛び掛かり、僕と幹彦は逃げるネズミとイヌを追って仕留めた。

「あとはゴブリンか」

 子犬くらいの大きさのネズミも角付きのやけに凶暴なイヌもスライムも倒し、遺体を袋に入れて台車に乗せて押している。

 ゴブリンはいないが、途中で会う猟犬はチビを見ると怖がるように後ずさりするし、見かけた若者はやたらと大声で死ねなどと叫ぶか青い顔をしていた。中年のグループは覚悟を決めたような顔付きをしており、堅実に倒そうとしていた。

 グループで違いがあるものだ。

「あ、いたぞ」

 幹彦が見つけるのと、2匹のゴブリンに見つかるのは同時だった。

「ワン!」

 チビが鳴くと、ゴブリンは一瞬棒立ちになり、そして、背を向けて走り出した。

「え!?逃げた!?」

「追うぞ、史緒!」

「え、あ、うん!」

 それを僕達は走って追いかける。

 当然と言おうか、先に追いついたのはチビだった。

 ガブリと足に食いつき、そのゴブリンを引き倒す。

 それに追いついた幹彦が、そのゴブリンの首を斬ってとどめを刺す。

 もう1匹の方にもチビは飛び掛かり、足を止めさせているので、こちらは僕がシャベルをフルスイングさせて首を落とす。

「チビ、偉いぞ。よしよし」

「ワン、ワン!!」

「猟犬として優秀なんじゃないのか」

 幹彦もチビを褒め、チビは喜んで尻尾を振っていた。

「さあて。じゃあ、指定の分だけ集まったし、戻るか」

 幹彦が言う。

「そうだな。時間もいい感じだしね」

 僕も腕時計を見て言い、ゴブリンの遺体を袋に入れた。

「帰ろうか、チビ」

 言うと、チビは足取りも軽く付いて来る。

 が、ふと脇道に飛び込んで行くと、小部屋へと飛び込んで行った。

「チビ?迷子になるよ」

 声をかけた時、小部屋の中から、

「グギャアッ!?」

という断末魔の声がした。

「ん?」

 僕も幹彦もそちらへ慌てて近付き、小部屋を覗き込んだ。

 ゴブリンよりも少し大きく、こん棒ではなく斧を持ったゴブリンの上位種と思われる魔物を、チビがかみ殺していた。

「チビ、大丈夫か!?」

 慌てて駆け寄り、ケガが無いか確認する。どうやら無事らしい。

「チビ、こいつをやったのか!?すげえぞ!こいつはたまに出る上位種ってやつだ!」

という幹彦の弾んだ声と、チビが褒めて褒めてというように飛びついて来たのでほっとして、チビを撫でまくる。

「チビはやっぱりすごいな!頼りになるよ。チビと幹彦がいればもう安心だな!僕の隠居生活は安泰だな!」

「ワン!ワン!」

 そうして僕達は、引き上げる事にした。


 


 

 



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