22.「いらっしゃいました。」
その日アイブリンガー邸では、明け方にバルシュミーデ公爵令息が訪問するとの先触れがあったので、慌てて迎える準備をしていた。
「何のご用かしらね。」
「あれじゃないですか? 結婚相手どうこうのやつ。」
「ああそうね。そういえば、決まったのかしら。」
「いやそんな人ごとみたいに……。主、ほんっと興味ないですよね。」
「そんなことないわよ。結婚するお相手とは、良い関係を築きたいわ。」
「まあそうですけど。アイツん時も、一緒に暮らすようになるまでほっとんど会いにも行かなかったですよね。」
「それは、だって。忙しかったからよ。」
「ザビ。アイツの話をしない。」
「ああ、すんません。」
実はシュテファニは、今回の婚約破棄でそれほどダメージを受けているわけではなかった。
怖い思いをしただろう、大変だったろうと同情的な周りをよそに、アレは気持ち悪かった……という気持ちはあるが、あとは「結婚相手をまた探すの面倒だなあ」くらいにしか思っていなかった。
しかしそれも、ルトガーの、私に任せておけ発言から丸投げだったので、自身はいつも通り仕事に精を出していたのだった。
フーゴと婚約が成ったときも、婚約式で会って以降は大きなパーティーに同行するくらいであとはほぼ手紙のやりとりだけだった。季節の折に手紙をしたためるだけ。それでも、書くときは心を込めていたとシュテファニは主張するのだった。ちなみに向こうは手紙すらめんどくさがり代筆だったようだが。
そんな経緯があったので、次また破棄になったらあとがない、今度はもう少し婚約時から相手に興味を持たなければいけないかなーと思っているシュテファニだった。
「いらっしゃいました。」
「ええ。お出迎えするわ。」
午前の10時頃、予定通りバルシュミーデ家の馬車が表門に到着した。
「ずいぶん多いわね……?」
「5台、いますね。」
「令息以外誰かついてきたんですかね?」
侍女ユジルが数えた通り、馬車は五台続いて門を通ってきた。一台には当然、ルトガーが乗っている。
あとの四台は、選びきれなかったというか、どれもこれも贈りたいと用意していった結果積みきれなかったプレゼントの山が載った馬車だった。
「シュテファニ嬢、会いたかったよ。」
大きな花束を抱え、キラキラした衣装に身を包んだルトガーが、馬車から降り立った。まるでどこぞの王子のような風貌だ。実際に、血筋は王家のものだが。
並んで出迎えたアイブリンガー家の人々は、その姿があまりにも眩しかったので目を背けたのだった。
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