19.「明日には出ていってもらう。」
「強制労働?」
「そうだ。」
「な、そんなの、下民の仕事だろう!」
「もう決まったことだ。」
「兄上っ!」
バーデン家の長男ヴィムと三男のフーゴは屋敷の執務室で話をしていた。先日バルシュミーデ公爵令息との密会で決まったフーゴの処分を言い渡すために、ヴィムが呼び出したのだ。
突然の重過ぎる処分に驚き掴みかかろうとするフーゴだったが、部屋に控えていた護衛に止められる。
「明日には出て行ってもらう。荷物をまとめておけ。」
「あ、明日?!」
施設に持っていけるものは限られているのだが、簡単な着替えや日用品などは許可されていた。貴金属などを持っていくのも禁止ではないが、あったらあるだけそこの施設員に押収されるので持っていく意味がない。寄付するようなものだ。
当然納得いかないフーゴだが、話は終わりとばかりに兄に追い出され、扉の外で待機していたバーデン侯爵家の私兵に自室に連れていかれる。部屋に入れられても扉の外で監視されているようだ。
それならと窓を開けてみるが、その下には当然のように兵が配置されていた。
「どうしろと、言うんだ……。」
このままでは施設に入れられて終わりだ。かといって監視の目が厳しくて逃げられない。フーゴは現状を打開する策を必死に考えた。
「せめて母上にお会いできれば……。」
侯爵家の現状を知って理解できているのかいないのか不明だが、母はフーゴに同情的だった。
母に訴えれば何とかしてくれるのでは、という希望があったが、この監視の目を掻い潜って会いに行くのは難しいだろう。
フーゴは知らないが、母は体調を崩して伏せっていたので、会えたとしても話ができるか疑問だった。
「くそっ! 今逃げられないのなら、移動中に……。そうだ、きっと外ならチャンスはある!」
いいことを思いついた、と言わんばかりに希望に輝く目。フーゴは、移動する際に馬車から抜け出す方法を考える。
「馬車に乗る前は、侯爵家の兵たちがいるだろうから無理だな。取り押さえられて乗せられるだけだ。移動中は馬車内に俺ひとりか? だとしたら、窓側を破壊したら意表を突けるのでは……。そうだ、あの魔道具がまだ使えるだろう。」
フーゴは部屋にある机から、アイブリンガー邸で使った魔道具を取り出し確認する。
事件時にいったん押収されたが、高い保釈金を払ったことで、保釈後に全ての持ち物は返還されていたのだ。
「よしっ使えるぞっ!」
起動スイッチを入れると、きちんと動いた。
これを使って移動中に脱出だ、と意気込むフーゴ。逃げたあとのことを考え、自分の手元にあるお金や売れそうな貴金属も荷物に詰めた。
「さあ、ここからが俺の復讐劇だ。待っていろシュテファニ! 俺をこんな目に合わせたこと、泣いて後悔させてやる!!」
こりない男である。
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翌日。
荷物を持って屋敷を出ると、そこにはあり得ない数の兵が配置されていた。
「……え?」
バーデン家の私兵に加えて、王都警備隊、そしてさらに、バルシュミーデ家の兵、王国騎士団の騎馬隊までいる。
普段から移送には警備隊が数名つくことから王都警備隊がいるのはわかる。その中には、フーゴを最初に聴取していたクルトの姿もある。クルトは夜勤に交代したあとのことは知らなかったので、「あ、あのうるさい自称侯爵、侯爵家の令息だったんだ。」などと呑気に配置についていた。
そして、バルシュミーデ家からの圧力によりバーデン家は、フーゴの移送に私兵を出せるだけ出さざるを得なかった。
加えて監視役のバルシュミーデ家の兵に、国王からほぼ私情で送られてきた騎馬隊がなんと50騎。総勢100名様の大行列だ。
「こ……」
言葉を失ったフーゴであった。
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