15.「見た目しかよくないんです。」
重苦しい空気が漂うバーデン邸では、未だ仲良し家族ごっこが行われていた。
アイブリンガー邸に押し入り王都警備隊に突き出されたフーゴは、親であるバーデン侯爵がすぐに保釈金を払い家に連れ戻した。
そこで説教なりなんなりをすればまだ救いようはあったのだが、彼らは息子可愛さに、罪をすべてシュテファニに擦り付けて考えていた。
「あの女、いったいどういうつもりなんだ。」
「そうよ。婚約者であるフーゴをこんな目にあわせるなんて!」
「怖かったよ……!」
「しかも婚約が破棄され慰謝料だなどと!」
親子はシュテファニに対して怒りを募らせていた。
こんな事件があったのだから婚約破棄は当然だと思うが、バーデン侯爵家の人たちはなかなかにくせ者のようだった。
しかし、そんな中でもまともに育った人間もいる。それが次期侯爵の長男、ヴィム・バーデンである。
「父上、いい加減にしてください。婚約破棄も慰謝料も当たり前です。
フーゴは、自分がどれだけの事をしたのか理解していないのか?」
「兄上、俺はただ求められるがままにシュテファニと関係を持とうとしただけです!」
「馬鹿な……。求められていないからこうなったんだろう!」
「ヴィム、そんなわけないのよ。フーゴが女性に拒絶されるはず、ないでしょう?」
「現実を見てください母上。見た目はいいが、見た目しかよくないんです。一年暮らしてみてアイブリンガー侯爵もそれに気づいているばずです。」
「まあ! あなた弟が可愛くないの?!」
「ヨルダンは可愛いです。出来た弟です。しかしフーゴは! ただの寄生虫ですよ! そもそもきちんと教育できていないんだから家から出すべきではなかった!」
「言い過ぎだぞヴィム!」
「父上も現実を見てください! 今回のことで、我がバーデン家の威信は地に落ちた! ここから、盛り返さないといけないんです。その為にはフーゴにはきちんと償わせるべきだ!」
「つ、償うって……大袈裟ですよ兄上。」
「大袈裟ではない。お前がいる限り我が家は再興できない。」
「そ、そんなことないだろう。」
「そんなことあるんですよ父上。相手はアイブリンガー侯爵です。侯爵が主だって行っている鉄道事業は国を上げての大事業です。そこでの評判もいいですし、領地に関しては非の打ち所もないと言われるくらいいい領主だ。
今後、このままだと、アイブリンガー侯爵と付き合いのある者たちは我が家とは手を切ってくるでしょう。向こうの領民にも知れているだろうから、あの辺りをバーデン家が運営する商会が通ることは難しくなります。どうするんです? それだけでも大損害ですよ!!」
必死に訴えかけるヴィムの言葉に、やっと事の重大さに気づいたバーデン侯爵は青ざめた。夫人はまだわかっていないのか、フーゴを責めるヴィムを叱咤していたが、フラフラと椅子まで歩き、魂が抜けたように座る夫を見て、言葉を失った。
「あ、あなた……、そんな……、フーゴは! わっ、我が家は大丈夫なんですわよね?!」
「ああ……。もう、そうなったら、おしまいだな……。私が、間違って、いたのか? 」
「そ、そんなっ……!」
この日、バーデン侯爵家を、絶望が襲った。
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