第19話



 二人が酒屋の奥の部屋から出てくる。

コミネともう一人は酒屋の主人である。

コミネは意気消沈したような顔をしている。

逆に酒屋の主人はいつもよりニコニコ顔である。


「いやー、面白いお話を聞かせて頂きましたよ」


 と、酒屋の主人が言う。


逆にコミネはと言うと、


「まさか、そんなことが・・・。」


と、その言葉だけを繰り返している。


「おう、タッタリア、面白おもろい話できたみたいやな」


「ええ、ええ、それはもう」


その横でコミネが


「まさか、そんなことが・・・。」


と呟いている。


「この星の医学を見損なっていましたよ。反省しなければなりません。地球はこれからも未来に向かって発展していきますよ」


「それって、医学においてもこの星は発展途上星、言うことなんやんな」


「誰もそんなことは言ってませんよ。ただ、理論上は素晴らしい発想を持っていらっしゃるので、ほんの少しアドバイスを加えさせていただいただけですよ」


「まさか、そんなことが・・・。」


コミネは呟き続けている。


 地球型エージェント・スーツに入っているタッタリアと、そのままのぺペンギンの姿のマルセリーノの二匹がコミネを見る。


「せやけど、こいつ、相当参ってるみたいやで」


「うーん、私としては適切なアドバイスを送っただけなのですが」


「何んか、間違えたアドバイスしたとか?」


「それはありません、彼の言っている研究については、私たちの星では既に、当たり前のように、普通に治療方法として使われているのですから、間違えた方向に向かっているわけではありません。ただ、彼らの言う理論と生命現象に、ほんの少し違いがあることを伝えさせていただいたまでです」


「それやな」


喋らなければ死んでいるようにも見えるコミネだ。


「まさか、そんなことが・・・。」


コミネの目は空虚である。


「どうします? 統括教授」


「どうもこうも、だいたい、お前が地球型エージェント・スーツからペペンギンの姿で登場した時点で、ワイらの科学力を受け入れなあかんかったはずやろ? それを、目の前にある現実を受け入れられへんから苦悩するんやろ? こいつら地球人の得意技やん。悲しみも、辛いことも受け入れられへんから苦しむんやん。こいつら、いつまで経っても成長できんわ」


「で?」


「で?って、暫く放っとくしかないやん」


「分かりました。後はお任せします」


急にコミネが叫び出す


「絶対に有り得なーい!」


「あかん、手に負えんわ」

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