第7話 攻守逆転


 地面を突き破り、突然先遣部隊のド真ん中に現れたサイクロプス1名とオーガ5名による6名から成る魔族軍の小隊の奇襲に慌てふためく先遣部隊の傭兵達。

 先遣部隊は先に現れた魔族部隊を圧勝と言える結果で下した事で、圧倒的勝利の美酒に酔いしれて油断していた所を突かれた事で先遣部隊の隊列は大いに崩される。

 そして地面を突き破った影響で割れた地面に、多くの傭兵達は足を取られた事で、足を取られて怯んでしまった者達が多数出た事で、敵が目の前に居るにも関わらず大きな隙を晒していた。

 当然その隙を魔族達が見逃す訳も、サイクロプスとオーガ達は己の拳で次々と先遣部隊の傭兵達を殴り飛ばす。


 サイクロプスとオーガは、共に2メートルはゆうに超える巨体を誇り、その巨体に見合った強靭な肉体が生み出す力は、数多い種族が存在する魔族の中でも上位に入るほどであった。

 またこの二つの種族の厄介な点は、体が巨大だからといって、スピードが他の種族の者達に劣っている訳でもない事が厄介な点でもあった。

 その圧倒的な力と、十分なスピードを生み出せる体から放たれる拳の一撃を人族がマトモに受ければ、良くて大ダメージを負う一撃であり、通常ならその一撃を受けた者に待っているのは死である。


 サイクロプスとオーガに次々と傭兵が殴り飛ばされる度、バキッ!、ゴキッ!っと鈍い音が戦場に鳴り響く。

 体から鈍い音を響かせた者は、漏れなく物言わぬ肉塊へと変貌した事を想像するのは難しい事でもないだろう。

 こうして戦の流れは事前に行われた戦闘とは打って変わり、魔族達が人族を蹂躙する側へとシフトするのであった。


 先遣隊である500名の傭兵達は、戦場の攻守体制が逆転してから5分も経たぬ内に、たった6名の魔族によって3分の2以上の戦力を失う事となった。

 奇襲によって先遣隊に大きな動揺が走った事が現状を招いているのは間違いないのだが、奇襲を仕掛けて来た魔族小隊の戦力が、単純な戦力換算すれば先遣隊より奇襲を仕掛けた魔族小隊が上回っている事も、先遣隊が蹂躙される要因であった。


 オーガとサイクロプス。この種族の1名当りの戦力は単純に一般兵で換算した場合だと、一般兵100人程と言われており、例えサイクロプスとオーガの正面切った闘いであっても、戦力差で負けている計算であった。

 それに加え魔族小隊の奇襲によって先遣隊は隊列を崩した後、怯んで生まれた大きな隙を徹底的に叩かれた事で、魔族小隊に大きなアドバンテージまで与えてしまっているのだから、一方的に押し負ける流れを巻き返す事が出来ないのは当然と言えよう。

 蹂躙され続ける流れを覆せない先遣隊が、このままでは壊滅するのは時間の問題である事は、誰がこの状況を見たとしても明白だった。

 

 「畜生!奴等最初からコレが狙いだったのかよ。

 最初に出て来た部隊は使い捨てるつもりの囮だったんだ。アイツら仲間を平然と捨て石同然に使って何とも思わないのかよ!」

 忌々しそうに第2小隊長ネリオは魔族達に向かって叫び、仲間を奇襲の為に平然と使い捨てのように使う魔族を非難するが、ネリオの非難の声を聞いても魔族達は顔色一つ蹴る事なく先遣隊の者達を蹂躙し続ける。


 魔族という種は、種族間の相互理解が進みにくいが故に、連帯や連携を苦手としている種だという事は、人族の誰もが良く理解している。

 なんせ連帯、連携といった行動を魔族が不得意とし、人族は連携と連帯を駆使した団結の力が優れているからこそ、魔族より劣る個の力を団結の力で補ってこれたから人族は100年以上魔族と互角に渡り合って戦争を続けてこれたのだから。

 

 だが人族も魔族も敵対している種の弱点は理解していても、敵対している種の基本的な思想や、考え方と言った思考や心理の分野に関しては、敵対が100年以上続いている事もあるためか、お互い敵対する種の思想や精神といった分野に対する理解や研究は、戦争が始まった頃から進歩が全く見られなかった。

 人族からすれば、仲間の命を平然と使い捨ての道具の使うような行動を取れば、たとえそれがいかに効率的な結果を生むと分かっていても、非人道的な作戦を実行し、生き残った者達は激しく非難されるだろう。


 もし仲間の命を捨て石にしなくてはならない作戦を、人族が取らざるを得ない場面があるとするなら、それは”そうしなければどうにもならない”と判断され、その場にいる者全員が合意するという条件が揃わなければ実行されないし、たとえそのような状況であっても同族の犠牲を決して人族を良しとしない。


 最初から最後まで全員が生き残るの道を模索し続けつ不屈の精神を持って行動するのが人族の基本的な行動方針であり、そうする事が人族にとって当たり前なのだ。

 つまり人族という種は、どれだけ甘いと言われようが仲間の犠牲を無くし、最善の結果を目指し続けるのが人族の思想であり、それを良しとするのが人という種の心理でもあった。


 だが魔族の場合は少し違った。例えば一人の魔族の命が犠牲になる事で、戦略の効率が1から10になると分かったとしよう。

 魔族という種は最も効率的な戦略が、一人の命が犠牲で成り立つ判断した場合。魔族は人族からすれば非人道的とも言える戦略を平然を率先して行うのだ。

 まさにその形を体現した物が、今先遣隊を壊滅一歩手前に導くという結果を生み出している魔奇襲作戦に他ならないのだ。

 つまり今戦っている魔族軍の者達はこのように判断したのだ。


 全員で正面から敵にぶつかるより、弱い者達は囮となって命を散らし、その命を持って敵に一時的な勝利の余韻を与え、油断したその隙に敵を潰した方が、全ての面において効果的かつ効率的だ!っと。


 先程述べたように、幾ら効率的だと分かっていても仲間を平然と捨て石にする作戦を人族が決行すれば、確実にその作戦を決行した者達は誰であっても避難されるであろう。

 しかし魔族の場合は違うのだ。


 魔族であれば、仲間を捨て石にした方が、作戦が効率的であったり大きな成果を得られると判断すれば、現在の戦力において、もっとも自分が捨て石に相応しいと判断すれば、魔族は誰もが自ら捨て石になる事を一切躊躇しないのだ。

 これは決して自分の命を安く見積もっている訳でも、死ぬ事に全く恐れを成していない訳ではない。

 自分の命は誰だって惜しいし、命の価値に優劣は無いと魔族の誰もが当然理解している。

 それでもそうした方が効率的かつ効果的と判断した場合、魔族は恐ろしいほど冷静に命の優劣を付け、この場で最も役に立たないと判断した者達は、率先して命を果たす任務に志願する。


 命を果たす使命を帯びた者は、己の命一つで戦略の効率とこれから先の展開を十分考慮した上で、己より力ある者や、より良い未来を紡ぐに可能性を持った者に未来を託して己が命を燃やす尽くす事を厭わない、躊躇しない崇高な精神で行動するのが魔族達の行動方針なのだ。

 要は魔族という種は、どれだけ非道と思われようが、効率と効果を最大限に引き出せる結果を目指すのが魔族の思想であり、ダイモンという種の心理でもあるのだ。


 人族の最と最善の結果を常に追い求める思想と、魔族の効率と効果を追い求める思想。

 実はどちらの思想も根っこにあるのは、仲間を思った上で行きついた思想であって、根っこの思想原理は同じであるのだ。

 だが人族と魔族の心理には、二柱の神が知らぬ間かつ勝手に生んで根付かせ広めたわだかまりが未だに解けていない事もあって、長い間二つの種の間で親善交流が途絶えたしまっているから未だに二つの種は互いの本質が同じである事をお互い知る由もなかった。


 今となっては、表面的に見える行動の部分だけでしか相手を見ていない人族と魔族。

 互いに互いの心理を未だに理解出来ないが故に、人族は魔族を冷酷かつ無慈悲な集団と思い、魔族は人族を実現出来ないくせに理想ばかり語る夢想家の集団だと思い込んでおり、それはお互い間違いである事を未だに二つの種は知る由もない。


 結局の所、人とダイモンという二つの種が互いの思想を認め合い、二つの種の間に存在する亀裂と溝を埋める事に繋がるような出来事を望む者が、未だに二つの種に現れない事も、この大戦が終わりを迎えない要因に繋がっているのであった。


 そう。この大戦が終わるその時を、誰もが本来なら望んでいるハズでもあるに関わらず…

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