第29話 疑問

「俺はスキルを3つ持っているんだ」


「なんと、3つも!?てっきり2つだと思っていたのじゃが・・・外れることもあるんじゃな」


急に遮られたのでこちらも負けじと主導権を取り戻す。


「こほん、いいかな?次からは俺が言い終わるまで黙っててくれると嬉しい」


むぅ、と言いたげだったがここで引き下がるようでは今後が思いやられる。さっさと続きを話すことにした。


「1つ目は感覚強化、一時的に五感の機能をあげるスキルだな。2つ目は疲労回復、これはまぁその名前の通りだ。1つ目のスキルのデメリットも軽減してくれるからかなり便利な代物だ。そして3つ目・・・こいつが厄介なんだが並列思考だ。簡単に言うともうひとりの人格がいて勝手に考えてくれたり話しかけてくれたりするんだ」


最初は面白そうに聞いていたが3つ目のスキルを聞いた途端険しい顔つきになる。


「うーむ、何かがおかしいような気もする。本当にスキルは3つなのか?」


どういうことだ?とも思ったが彼女の言っている意味をすぐに理解する。


「この並列思考と思っているものはスキルでない何かということか?」


「そういうことだ。スキルの数が3つと言ったのはこの場が初めてか?」


「いや、ユカには話した。ユカは読心術のスキルがあるから俺がスキルを隠していることをすぐに見抜いたんだ」


「1つ仮説を立てよう。スキルが3つあるとアンドレは思っている。そう思っているからユカも3つだと思っている。ここまではあっているな?」


「まぁ、そうだが」


「では3つだと思ったのはなぜじゃ?」


「それはこの並列思考が最初にスキルの数は3つといったからで・・・え?ま、まさか」


「まぁ仮説に過ぎんがの。我はスキルの数を読み間違えることは滅多にないからそう思っただけじゃ、ささっ次はユカのスキルを教えてはくれんかの?」


ユカがスキルの説明をしている間、俺は上の空だった。考えもしなかった、こいつがスキルじゃない可能性なんて。


『・・・何やらお悩みのようですね』


(お前のことだよ、やっぱりただの並列思考というにはちょっと無理があるように思ってるんだよ。アンナの言っていること結構当たっているように俺は思ったけどね)


『私がスキルであろうとなかろうと貴方のために行動することには変わりません。確かに、私自身もスキルだと思っていたので中々興味深い仮説です。今後の方針にも影響してくるかもしれませんね』


どうするべきなんだ?こんなことで悩んでいる場合なんかじゃないのは確かなんだけど・・・


そう思い悩んでいるうちにユカの説明はとっくに終わったらしい、2人が俺の顔を覗き込んでいた。


「うわ、びっくりした」


「驚いたのはこっちだよー。急に考え込んだと思ったら何回呼びかけても反応の一つすらないんだから」


え?そんなに?と思ったが2人の反応を見る限りそれは間違いないようだった。


「いや、すまない。アンナの言ったことについてつい考えてしまってね」


「そんなに気になっておったのか。なに、心配せんでもええ。今までそいつはお主のために働いとったんじゃろ?」


まぁそれはそうだ。これに関しては一貫している。


『気になるのはわかりますがこれといって何もできないのですから神経質になるだけ無駄なのではないでしょうか』


うぅ、そうだよ。


「・・・そうだな、気にしすぎたのかもしれない。こいつが絡むとらしくなくなるんだよな」


俺は自分の頭を指さしながら説明する。我ながらおかしな光景だ。


「相当病んでいるようじゃな、気持ちは分からんでもないが受け入れるしかないの」


やっぱりそうかなとも思ったがこの2人が一般的な感性を持っているかはよく分からない。しかし少なくとも2人はそう思っているようだった。


「そういえばスキルについて詳しい知り合いがおったわ。えーと、どこに住んでおったかな?」


思ってもみない発言を聞き、一気に気分が高揚する。しかし、直後すぐに思い知らされる。


「思い出した。ここからサウスの街を越えてさらに南のところに1人で住んでたはずじゃ」


「えっ、それって・・・」


地震の震源となっていた辺りだ。そんな場所に住んでたとあっては・・・


「ま、まぁ落ち込むでない。そんなにヤワな奴じゃなかったはずじゃ。今頃しぶとく生きているであろう」


打ち砕かれた希望はそう簡単には戻ってこない。今日は散々な日だなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る