第9話 旅立ち

試験から1週間程経ち、とうとう出発の日が訪れる。


「出発が決まってからはバタバタしてて忙しかったなぁ」


「これも必要な試練だと思え。一人で全部できないと駄目だからな。寧ろこれくらい余裕と言ってもらいたいよ」


「あらあら、貴方とあった頃は忘れ物やらなんやらでてんやわんやだったのに偉そうね」


「うるさい、その経験があるからこうやって教えてるんだ」


「へぇ、親父にもそんな時代があったんだ~」


「それくらいにしてあげましょ。別にいじわるしたいってわけじゃないし」


「うぅ・・・帰ってきたときちゃんとできてなかったら覚悟しておけよ」


(おぉ、怖い怖い)


親父をいじるのはこれくらいにしておこう。別れの場で険悪なのはよくないからな。


「大丈夫だよ、この世界で何が起きたのか見て回ってくるのにそんな頼りないままじゃ・・・ね」


「寂しくなるわねぇ、元気で帰ってくれればそれだけでいいわ」


「俺達の子だ。そんじゃそこらの奴には負けねぇよ」


「・・・ありがとう。俺は2人の子に生まれることができて幸せだ」


ガラにもなく目頭が熱くなる。前世の記憶はもちろんあるがこの両親も俺の親であることには変わりない。そんな2人から受けた愛情は計り知れない。


少し落ち着きを取り戻したので、いよいよ別れの時だ。もうお互い言いたいことは言い終わったので手を振り合うだけだ。


小さくなっていく我が家と両親を見ながら俺は進むべき方向へと足を進めていった。


あの地震のあった方角へと進んでいく予定なのだが、具体的にどこかまではわかっていない。しかし、遠く離れていたであろうこの地でも相当の揺れがあったことを考えると現地では壊滅的な被害が出ていることは想像に難くない。


(ま、とにかく近くに行って情報を集めねぇと分からねぇな)


俺の住んでいる村にはそういった情報は今のところ一切入ってきていない。元々他との交流が活発ってわけではないが流石に怪しいと言えば怪しい。


『時間が経てばわかることもあるんでしょうけど・・・この村に居続けていてはそれもかなり遅くなりそうですね』


(まぁこれも目的の一つではあるんだけど、やっぱり本命はこっちだよな)


両親には今回の地震の原因を探るためと言っているので情報集めをしないわけにはいかない。しかし、俺は早くこいつから解放されたい。その思いでいっぱいだった。


『なんだかんだ世界を救う羽目になりそうな感じがしてきましたが・・・』


うるせぇ、と頭の中で吐き捨てまずは最寄りの街へと向かっていく。俺達の住んでいる村とも交流があり、俺も両親に引かれて何度も訪れたことがある。


「こうやって見ても前通った時と変わったところはねぇなぁ」


『現在、貴方の過去の記憶と照合を行っています。多少負荷がかかっていますのでご了承ください』


(いつもはそんなことしないのに・・・やっぱり以前のような世界ではないのか?)


『わかりません、しかし警戒をするに越したことはないと判断しました』


(なぁ、俺の判断は介入する余地は無いのか?)


『貴方がやるなと言えばやめますが・・・どうします?』


(いや、続けてくれ)


『承知しました』


俺は普通に周りの景色を見ているだけだが疲れる。多少の負荷って言ってたけどこれは多少なのか?と文句も言いたくなる。


疲労に嫌気がさしてきたあたりでようやく処理が終わったようで途端に楽になる。


『今のところ大きな差はありませんでした。次の街までは特に問題は無いと思います』


(そうか、ありがとう。にしても思ったより疲れるな)


『それは慣れてもらうしかないですね』


(はぁ・・・照合はしばらく使う機会はなさそうだからいいけど)


その後は順調に進む事が出来、無事に目的の街カショーネにたどり着く。


「うーん、パッと見た感じは特に変わってないなぁ。まぁとりあえず聞き込みを始めようか」


そして街を行き交う人に対して聞き込みを開始する・・・が、闇雲に聞き込みをしても有効な情報はなかなか得られない。横着せずに情報が集まりそうな場所でやるべきだったかなぁ。


『・・・私は最初からこうすべきだと言ってたんですけどね。まぁこれも経験でしょう』


一々うるさい奴だ。全部こいつの言う通りにしてはどっちが主導権を持っているのか分からない。俺は俺のやりたいようにやるんだ。お前の意見は意見でしかないということは忘れないでくれ。


傲慢?そう思う人もいるかもしれない。だが実際に離れたくても離れれない存在というものは中々厄介なのだよ。


調査対象を変えてみたが少し手掛かりになりそうな情報はいくつかあれど核心に迫る情報は皆無だった。


「まぁここで情報が入るなら苦労しねぇよな、とりあえず手掛かりになりそうな情報を頼って進むしかないか」


ここで手に入った情報は主に2つ、一つは南東の方角の一部からの情報が入りにくくなっているらしいということ、もう一つはその辺りで出現する魔物の種類が変わっているということだ。


ついでにスキルに関する情報も集めてはみたがどれも聞いたことのある情報ばかりでこっちはさっぱりだった。


『ここからはあまり行き来したことの無い場所になりますが、これからも一人で旅をする予定ですか?』


うーむ、それだ。もちろん地図は持っているから旅をする分には困らない。だが、こいつとのある意味2人旅というのも難儀ではある。どうしようかな。そう思っていた時だった。


「あのぅ、地震のことを調べているというのは貴方ですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る